「EV全振り」しない日本車メーカーは正しかった! だからといって“EV叩き”も筋違い、自動車市場の競争は「政治戦」である

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日本車メーカーにとって、EVに全振りするよりも、HVも含めた多様な選択肢を用意することが最適解だ。

EV否定論はむしろ味方

トヨタは2月6日、2024年3月期の連結売上高予想を43兆円から43兆5000億円に、純利益を3兆9500億円から4兆5000億円に上方修正すると発表した(画像:トヨタ自動車)
トヨタは2月6日、2024年3月期の連結売上高予想を43兆円から43兆5000億円に、純利益を3兆9500億円から4兆5000億円に上方修正すると発表した(画像:トヨタ自動車)

 前回も書いたように、少なくとも直近の日本車メーカーにとっては、EVに全振りするよりも、HVも含めた多様な選択肢を用意することが最適解である。

 ただし、政治的な思惑も含まれており、販売台数の多い欧米や中国などの市場では、今後強力な規制の包囲網が狭まっていくこともある。従って、日本車メーカーは、現在遅れているEVの開発に努力しなければならない。

 前回の末尾で詳述したように、各自動車メーカーの“消極姿勢”は、必然的にそう見えているにすぎない。数年前ならともかく、現在の日本車メーカーで一定以上出世した人なら、EV時代への対応を否定する人はほとんどいない。そうなると、日本のSNSや一部の自動車メーカー関係者に広がるEV否定論にどう対処するかが問題となる。

 結論からいえば、少なくとも自動車メーカーの首脳部レベルで危機感が共有されている以上、EV否定論のようなものがある程度流布していることは

「その状況ごと生かしていく」

べきである。なぜなら、EV市場の主導権争いは、単なる市場競争ではなく政治戦になるからだ。

 HV時代が1年でも延びれば有利な日本車メーカーは、世界中にいるEV否定論を消して回る必要はない。折に触れてリップサービスし、エンジン車を愛する同志との絆を温めておけば、

「残存者利益戦略」

という点で非常に重要な意味を持つ。

 一方で、EVの潮流に乗り遅れると考える論者は、政治戦のためのリップサービスとは異なる自動車メーカーの戦略を理解した上でコミュニケーションを図りながら、適切なタイミングでEV時代への転換をきちんと図ることが重要だ。

 こうした発想はズルいのだろうか。

 しかし、日本車が欧米市場で存在感を高めてきた歴史は、こうした偏見レベルの民衆感情に正面から取り組むことで信頼を獲得してきたという事実を忘れてはならない。これもビジネスの重要な要素である。

 さらに重要なことは、日本の政治戦の戦い方だ。それは、誠実さという日本的価値観が、

「敵は二酸化炭素であってガソリンエンジンではない」

という意味において現れたものである。このように考えていくことが大事なのだ。

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