「ドル箱特急」を失った北越急行 損失は毎年数億も、復権に向けた投資家デビューと比類なき先見性
新たな糧道の模索へ

そんな隆盛も、2015年に終わりを迎えることとなる。終止符を打ったのは北陸新幹線だった。
北陸新幹線の開業により、並行して走行していた特急はくたかは、廃止が決定。売り上げの9割を占めていた列車の廃止で、北越急行は瞬く間に赤字へ転落した。かつてレジェンドと呼ばれた北越急行に、猛烈な逆風が吹き始めた。
もちろん、北越急行もただ指をくわえて眺めていたわけではない。普通列車タイプの車両でありながらも停車駅を極端に少なくした、往年の特急はくたかをほうふつさせるような、超快速スノーラビットという列車を運行したり、さまざまなイベント列車の運行や鉄道グッズ販売を実施したりしてきた。だが、そうした鉄道事業と関連事業だけでは、特急はくたかの抜けた穴を埋められなかった。
そこで、北越急行が新たな糧道(りょうどう。利益をもたらす道すじ)として選択したのは、
「投資家としてデビューする」
ことだった。投資家として保有する株式の有価証券利息や売却益によって、前出の事業では埋めきれない特急はくたかの穴を埋める勢いで猛烈な逆風に太刀打ちすることが目的だ。
そんな北越急行は、適格機関投資家として金融庁に登録されている。具体的な説明は長大になってしまうので割愛するが、金融商品取引法に定められた条件を満たし、金融庁長官に指名された法人の投資家(一部個人投資家も含む)が適格機関投資家であるとイメージすると良いだろう。適格機関投資家に名を連ねるのは金融機関や保険会社といった系統の企業が多いが、少なからず鉄道会社も名を連ねている。
ただ、全国の鉄道会社(鉄道会社の親会社である持ち株会社は除く)のなかで、適格機関投資家として認められているのは、2022年9月時点でJR各社以外では北越急行のみだ。
かつて、在来線最速の営業運転速度や第三セクター鉄道としては驚異的な営業係数で名を轟(とどろ)かせた北越急行が、今度はJR各社を除く鉄道会社に先駆けて適格機関投資家デビューを果たした。特急はくたか亡きあとも、北越急行の姿勢は今も健在だ。