「完璧なサービスはいらない」 深夜の国道で食べる“一杯のうどん”が現代人を引き付ける理由――25秒が疲れた心と身体をほどく
深夜の国道沿いに残る自販機うどんは、1970年代に全国で1万2千台以上設置された物流拠点型サービスの名残。現役60台は、人手不足や効率化の波の中で、孤独なドライバーに“25秒の休息”を提供し続ける経済的価値も秘める。
絶滅危惧種の維持経済

うどん自販機は1970年代に普及し、製造が終了した1995(平成7)年頃までに、3社のメーカーで合わせて1万2000台以上が生産されたという。累計では膨大な数が流通したが、現在も現役で稼働しているのは日本全国でわずか60台ほどとされる。
富士電機のメーカーサポートが終了した後も稼働し続けているのは、機械が量産品の枠を超え、維持する人の技能と一体化した工芸のような存在になったためである。不足する部品を自作し、廃業した他店舗の機械から部品を取り出して流用する共食い整備を行い、摩耗した回路を自分で修理して出汁を毎日仕込む個人の手が、絶滅の危機にある機械を支えている。
1980年代以降、構造が複雑でメンテナンスに難点のある自動調理販売機は、効率的な商品供給を可能にするコンビニエンスストアに押され、急速に姿を消した。また、2021年の改正食品衛生法の施行や、高度な管理体制の要求といった制度的包囲網は、本来であればこうした古い仕組みを市場から根絶させるはずであった。
現存する拠点は、厳しい規制による摩擦を、オーナーの努力で補いながら稼働を維持している。手作りの出汁や個別に味付けされた牛肉、冷凍保存のゆず皮などの工夫は、無人販売の裏側で多くの手作業が投入されていることを示している。
効率化のために導入された機械を維持するために、かえって人の手間が増えている。利益の最大化ではなく存続そのものを目的にしたこうした活動が、従来の市場競争とは異なる価値を生み、遠方の若者を引きつける要因となっているのだ。