タクシー「乗り逃げ」されたら、運転手はいくら負担しなきゃいけない? 最も多い被害額と手口とは
タクシー業界の内情を知る現役ドライバーが、業界の課題や展望を赤裸々に語る。今回は「乗り逃げ被害」について。
「すぐ戻る」と降車した男の行方
乗り逃げはどのような手口で発生するのか。被害に遭った場合、会社や運転手はどのように対処するのか。筆者の実体験をベースに紹介したい。
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新宿のJR大久保駅前からJR立川駅近くのアパート前まで、30km超・小一時間の距離だった。時間は15時過ぎ。60歳前後の男性で、パンチパーマの遊び人風だった。
行き先での用を済ませたら、復路もこの車で帰ると告げて、おたくの社長とは昔から友人同士だとか、運転手さんも何人も知ってるとか、どうも調子のよい話をよくしゃべる。
目的地に着くと「これ置いてく、すぐ戻る」と風呂敷包みをポンと座席に置き、5、6歩を歩くとふいに戻ってきて、
「運転手さん、悪いけどさ、2万円ほど貸してよ。すぐ返すから。すぐ大久保まで乗って帰るからさ。いい稼ぎになるでしょ」
ときた。
私は即座に「さすがにお金を貸すことはできません」と断るが、「俺の大事な荷物も預けているし、用はすぐ終わるからさ」と、手を出して早く早くの素振り。
それでつい、2万円もの大金を渡してしまった。これ自体は完全に筆者の落ち度だ。このような対応は、当たり前だが二度としていない。
男はアパートの2階へトントントンと上がって行く。どの部屋に入ったかは、木の陰になっているから分からない。そして、待てど暮らせど男は戻ってこなかった。