タクシー「乗り逃げ」されたら、運転手はいくら負担しなきゃいけない? 最も多い被害額と手口とは
タクシー業界の内情を知る現役ドライバーが、業界の課題や展望を赤裸々に語る。今回は「乗り逃げ被害」について。
逃げた男の思いがけない後日談
アパートなら逃亡の恐れは低いだろうと油断したのが間違いだった。
やられたか、と気付いて、慌ててアパート2階へ上がると、建物の反対側にも階段があった。そこから狭い通路を抜けると、にぎやかな駅前商店街につながっていた。
座席に残していった風呂敷包を開けると、中身はただの古新聞だった。
立川警察署に被害届を出すと、女性警察官が「運転手さん、お人よしですよ、乗り逃げされて、おまけに追い銭せんまでしちゃうなんて。しっかりしてください。立川もどこも都内は乗り逃げが多いんですよ」。
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乗り逃げの場合、警察に届けると会社が半分、運転手が半分を負担する決まりとなっている。運賃は半分だが、前述のケースの場合は追い銭もあるから、そちらは当然ながら全額、運転手の丸損となった。
乗り逃げ事件はそのまま迷宮入りとなった。ところがこの一件には少しだけ続きがある。
1週間後、JR大久保駅の近くの職安通りで、女性と歩く男を見つけたのだ。「え、マジか!」
時間は薄暗くなった時刻。私は実車中(営業中)にもかかわらず、車から飛び降り、「コラーーー! 乗り逃げぇーーー!」と叫んだ。
こちらに気づいた男は、ビックリして慌てて逃げた。必死で追いかけた。逃げ足が速く、取り逃がしてしまったが。東京も広いようで狭いと実感した一件だった。