誤解された「トヨタ生産方式」 生産性向上は単なる結果にすぎない、秘められたその真意とは

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トヨタ生産方式とは、あらゆる無駄を極力排除して生産効率を向上させる考え方であり、生産性の向上を第一義とする生産方式と解釈されがちである。しかし、生産性の向上は結果であり、真の目的は別のところにある。

TPSの根幹をなす2本柱

1978年発売。「自働化」「ジャスト・イン・タイム」などについて書かれた『トヨタ生産方式』。著者はトヨタ自動車工業の元副社長・大野耐一氏(画像:ダイヤモンド社)
1978年発売。「自働化」「ジャスト・イン・タイム」などについて書かれた『トヨタ生産方式』。著者はトヨタ自動車工業の元副社長・大野耐一氏(画像:ダイヤモンド社)

 TPSは、高品質な製品を効率的に生産し、より早く顧客に届けることを目的とした生産の考え方である。この生産方式は、トヨタ自動車とそのグループ会社において、長い時間をかけて改良されてきた。

 TPSは、

「自働化」
「ジャスト・イン・タイム(JIT)」

というふたつの考え方を軸としている。自働化は「自動化」と区別するために、しばしば「にんべんのついた自動化」と呼ばれる。

 異常を検知すると機械が自ら停止することで、不良品を流出させないという考え方である。最終検査で不良品を排除するのではなく、各工程で品質を確保することで、不良品の無駄な生産を防ぐという考え方である。

 不良品の発生にともなう無駄な作業(不良品の撤去や廃棄など)を排除できる。自働化の考え方は、トヨタグループがよく使う「品質は工程で造り込む」という言葉にも表れている。

 また、機械が自ら異常を検知するため、オペレーターを常駐させる必要がないメリットもある。「人を機械の番人にしない」というトヨタ自動車の考え方を体現したシステムである。

 ジャスト・イン・タイムとは、顧客が必要とするものを、必要なときに、必要なだけ供給するという考え方である。使用した部品は必要な分だけ前工程から補充し、不必要に製品を作りすぎないようにする。これは、必要以上の在庫を持たないことを特徴としている。

 一般にTPSは、生産性と効率を向上させるための生産手法として認識されている。生産性とは、投入した資源(ヒト、モノ、カネ、時間など)に対して、どれだけの成果(収益)が得られたかの割合である。

 不良品の生産を避けることで、無駄な部品や時間を減らし、投入する資源を減らすことができる。TPSがあらゆる無駄を省き、生産性の向上につながることは紛れもない事実である。

きっかけは豊田佐吉の親孝行

豊田佐吉(画像:トヨタ自動車)
豊田佐吉(画像:トヨタ自動車)

 トヨタ自動車の豊田章男会長による、TPSについての非常に興味深い解釈がある。その解釈によれば、TPSは「誰かの仕事を少しでも楽にしてあげたい」という考えに基づいている。つまり、誰かの仕事を楽にするために、自分たちの仕事を改善すれば、結果として効率が上がるという考え方である。

 豊田自動織機の創業者である豊田佐吉は、母親が毎晩夜遅くまで機織りをしているのを見ていた。当時、織物は織機と呼ばれる機械を使って手作業で作られていた。

 当初使われていたのはバッタン織機と呼ばれる機械で、両手を使わないと操作できず、出来上がった織物の品質にムラが出やすかった。

 また、糸がなくなったり切れたりした場合は、手作業で交換しなければならず、作業者は常に機械の近くにいなければならなかった。その際、糸を口で吸い出す必要があったため、粉塵を吸い込んで肺を痛める人もいた。大工だった佐吉は、これらの問題を解決し、母親を含む織物職人の仕事を楽にしたいと考えた。

 まず、織機を片手で操作できるように改良した。そして、糸がなくなったことを検知して自動的に新しい糸に切り替えるシステムを作り上げた。これにより、オペレーターが常に織機のそばにいる必要がなくなった。機械は、糸を交換する作業を自分でできるように改良された。これが「にんべんのついた自働化」の原点である。

 これに加えて、口で糸を吸い出さなくても糸を交換できる仕組みも作り、作業はますます楽になった。「人の仕事を楽にしてあげたい」という一心から生まれたのが「自働化」ひいてはTPSなのである。生産性の向上は、その結果の副次的効果ともいえる。

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