トラック運転手の「待遇改善」は可能か? サービス労働が跋扈する物流業界、荷役作業からの解放目指せ
特定最低賃金制度という解決策
規制緩和後の運賃の低下について、生産性の向上によってこれを成し遂げたのは一部の大規模事業者のみで、中小零細業者は利益や人件費を削ってこれに対応した。結果的にトラックドライバーの待遇は下がり、賃金は所定内では平均的な労働者よりも2~3割低く、長時間の残業をこなしてようやく平均的な労働者に追いつくような形である。
以前は20~30代をトラックドライバー、40~50代でバス運転手に転職し、60代でタクシー運転手になることで、平均に近い生涯賃金を獲得することもできたが、バス運転手やタクシー運転手の賃金低下もあってこれも難しくなっている。
結果として、運送業界は人手不足に陥っている。かつてトラックドライバーは「きついが、稼げる」仕事であったが、現在は「きつい」まま「稼げない」仕事となっており、若者が敬遠する仕事となっている。
2016年の時点で大型ドライバーの平均年齢は47.7歳であり、日本の男性労働者の平均年齢43歳を上回っている。ドライバーの高齢化も問題になっているのである。
こうした状況を変えていくためには
「適正な運賃」
を事業者が受け取れることが重要である。今までの荷主との力関係で決まってしまうような運賃ではなく、ドライバーの賃金、燃料費、高速代などの原価を積み上げた運賃が求められる。
特に本書で取り上げられている特定の産業や職業ごとに最低賃金を決める特定最低賃金制度はひとつの解決策になるかもしれない。
現在は高知県のみで採用されているが、高知県では2021年10月に改定された地域別最低賃金が時給820円であるのに対して、一般貨物自動車運送業の時給は910円になっている。それほど大きな差ではないかもしれないが、このように最低賃金に差がつけば、例えば、荷役や商品陳列といった作業からドライバーを解放することにつながるかもしれない。運賃は規制することができないが、賃金に関しては国が規制することが可能なのである。
本書では、これ以外にも宅配便の現場などについても触れており、物流に対する消費者の責任といったものも考えさせる内容になっている。物流は私たちの生活を支えるインフラと言ってもいいものであり、物流現場の危機は私たちの生活の危機にもつながるものである。本書はそのことを改めて意識させてくれる本である。