トラック運転手の「待遇改善」は可能か? サービス労働が跋扈する物流業界、荷役作業からの解放目指せ
規制緩和が生み出した運送業者の零細化
トラックドライバーの待遇の悪さの原因として、荷主に対して運送会社の交渉力が弱いという問題がある。
運送会社は1990(平成2)年を境に急速に増えたが、このきっかけとなったのが同年に施行された
・貨物自動車運送事業法
・貨物運送取扱事業法
の、いわゆる「物流二法」である。
それまで、輸送秩序を守るという国の政策のもと、需給調整規制がかけられ、許認可運賃制度が定められていた。トラック事業に参入するには免許の取得が必要であり、大きな参入障壁があったのである。しかし、増加する物流のニーズに応えられないとして規制緩和を求める声が起こり、物流二法が施行された。
これによって、事業参入は免許制から許可制になり、車両台数や車庫などの一定の条件を満たせば参入が認められるようになった。また、運賃も許可制から事前届け出制に変更された。さらに2003年の規制緩和では営業区域の制限が廃止され、運賃は事前届け出制から事後届け出制へと変化し、運賃の設定や変更がより容易になった。
1990年の時点ではバブル景気のさなかであり、物流二法の施行があって運送業界に問題は起きないという見方も強かったが、そうではなかった。1990年に4万72社だったトラック運送事業者は2007年には6万3122社まで増加したが(2008年から減少に転じたものの、その後はほぼ横ばいの状態)、一方で輸送トン数は1991年をピークに減少傾向にある。
その結果、トンキロ(トン数×キロ数)あたりの売上高は、1990年の81円から2001年には59円まで下がっている。過当競争の中で価格の決定権も荷主に移っていき、燃料代や高速代、人件費などを足した原価を割り込むような受注も行われる状況になっている。
営業許可の条件になっている最低車両保有台数が、2003年の規制緩和で全国一律5台にまで引き下げられたこともあり、運送業者の零細化も進んだ。2015年の時点で従業員数が50人以下の事業者の割合が90%を超えている。
こうした中で多層的な下請け構造が生み出され、下請けに出されるたびにマージンが引かれ、最終的な運送を担う業者の取り分が減るという状態になっている。