物流構造が大転換した「近代日本」 内航海運、鉄道、道路と主役交代した歴史を振り返る
「輸送トンキロ」「分担率」とは何か
貨物輸送量の主要な指標として、輸送重量に輸送距離を掛け合わせた「輸送トンキロ」が用いられる。
そして輸送機関ごとの輸送トンキロのシェアを「分担率」という。
海外との間ではなく、国内の輸送が対象なので、外航海運や国際航空貨物の輸送は含まれない。
今回は、貨物輸送の輸送機関別分担率の1895(明治28)年から125年間の長期推移をほぼ5年ごとに掲げ、わが国の物流構造の歴史的な変化をたどった。
日本の貨物輸送のをひも解く
まず、わが国の貨物輸送の近代史を大きく概観すると、明治以降、
内航海運(国内貨物の海上運送)
↓
鉄道
↓
道路
へと主役交代させながら、大きく構造を変転してきたといえよう。
明治維新後の文明開化の中で、旅客輸送においては鉄道輸送が急速に発達したが、貨物輸送に関しては、鉄道輸送も拡大しつつあったとはいえ、江戸時代から引き続き船舶輸送のシェアが大きかった。
戦後しばらく鉄道が分担率50%を超えていた時期があったが、これは軍事物資輸送に従事した多くの内航船舶が戦時中に撃沈され、一方、道路網整備とトラック輸送が本格化する以前であったためである。
戦後の高度成長期の中で、内航船舶の建設が進み、当時経済成長を主導していた鉄鋼、セメント、石油精製など重厚長大型産業からの需要増にこたえ、内航海運の分担率が拡大し、1975~80年には50%を超えている。
自動車の普及や全国の道路ネットワーク、高速道路の整備にともなって自動車(トラック)の貨物輸送分担率が戦後一貫して伸びてきた。ただし、オイルショック後の1970年代前半やリーマンショック後の2010年代前半にはやや停滞した。しかし、2010年以降は50%を超えている。
高度成長期以降も
・ドアツードア輸送
・小口多頻度輸送
・24時間対応
・製造業のジャストインタイム対応
などのニーズに対する適合性から自動車輸送の分担率は伸び続けてきたが、近年は環境対応や荷主ニーズへの過剰対応の見直しから、自動車の分担率も横ばいに向かいつつある。
鉄道輸送は内航海運と自動車輸送のはざまで優位性を失い、分担率は戦後直後の50%以上から2000(平成12)年の3.8%までに大きく縮小したが、その後はやや持ち直している。
内航海運は重量貨物の輸送についてはなお重要性を失っていないが、
「重厚長大から軽薄短小へ」
向かう産業構造の転換の中で、貨物全体の中で重量貨物の占める割合が低下してきているので分担率も縮小傾向にある。
しかし、自動車輸送に比較して鉄道輸送や内航輸送はエネルギー効率やCO2の発生など環境負荷においては優位性を有しており、いわゆるモーダルシフト(効率的な輸送機関への転換)の中で今後さらに分担率を回復できるか注目される。
以降は、こうした物流転換の過程を江戸時代からの流れや輸送技術、地域構造の変化を含め、やや詳しく見てみよう。