福利厚生か?それとも既得権益か? 鉄道マンだけが持つ「職務乗車証」という特別乗車券の闇
「職務乗車証」という名の既得権益
鉄道会社の社員は「職務乗車証」と呼ばれる特別な乗車券を持っている。これは社員が駅間を移動する際に使うための特別な乗車券だ。現在はICカードになっているので、一般客と同じく自動改札機にかざすだけでOKだ。
職務乗車証というお堅い名前からは、社員が職務で乗車する際、つまり仕事先の駅などへ出退勤する際に使うもののように感じられるが、実際のところは、プライベートの利用も禁じられていない。なぜなら、社員への福利厚生の意味合いもあるからだ。
鉄道会社によって違いはあるが、職務乗車証には運賃だけでなく、
・特急券が半額になる
・自社運営のサービスで特典が受けられる
などのサービスもある。
ただ、この職務乗車証には鉄道会社内部からも
「行きすぎた既得権益ではないか」
と疑問視する声もある。
と言うのも、福利厚生の枠を越えて「不正利用」をする事例が後を絶たないからだ。インターネットで検索すると、皮肉なことに職務乗車証の解説記事より、不正への糾弾を求める記事のほうが目立つ。
今回はそんな、内部からも批判される「職務乗車証」について考えてみたい。
キセルで使用 理由は「小遣い欲しさ」
職務乗車証を使った大規模な不正として、2010年6月に発生したJR東海の事例がある。内部調査によって明らかになったこの事例では119人が処分され、子会社を含め7人が解雇。77人が出勤停止の処分を受けている。
このときは、職務乗車証を使ったキセルだった。
不正を行った社員らは、まず自分で購入したIC乗車券を使って、他社JRや私鉄の改札を通過。JR東海に乗り入れている他社の列車に乗車し、JR東海の駅で下車。改札から出る際には職務乗車証を使用。
その後、IC乗車券の入場記録を同僚に頼んだり、駅の端末を自ら操作したりして消していた。無賃乗車の被害にあったのは、JR東日本やJR西日本のほか、東急・小田急・京浜急行・都営地下鉄・大阪市営地下鉄と、大規模な範囲に及んだ。(『中日新聞』2010年6月10日付朝刊)。
不正をした理由は小遣い欲しさ、生活費などさまざまだったが、休日に
「東京ディズニーランドへ遊びにいった際に不正乗車で移動した」
ケースもあった。中でも悪質として解雇された社員は、通勤手当をもらった上で出勤のたびに不正を繰り返していた(『毎日新聞』2010年6月27日付朝刊)。
これをきっかけに、他社でも職務乗車証の調査が実施された。2010年7月には、JR東日本で同様の手口を使って不正乗車した31人が処分され、うち9人が解雇されている(『中日新聞』2010年7月22日付朝刊)。