福利厚生か?それとも既得権益か? 鉄道マンだけが持つ「職務乗車証」という特別乗車券の闇
悪質さが目立った札幌市交通局の事例
JRの事例は、いわば古典的なキセルだったが、より悪質な事例として厳しい非難を浴びたのが、札幌市交通局での事例だ。
札幌市交通局では、職務乗車証は配布ではなく使う際に帳簿に記録し、
「使用後は速やかに返す」
ことを運用上の決まりとしていた。しかし2017年に不正利用が明らかになり、調査を実施したことで、約600人いる職員のうち233人が
「週末に乗車証を持ち出して月曜日に返却する」
など、複数日にわたっていたことが発覚した(『北海道新聞』2017年12月9日付朝刊)。
その手口も大胆だ。乗車証に使用履歴が残ってたため、不正利用が明らかになった職員15人は、使用のICカード乗車券と職務乗車証を使って、前述のJRと同じ手口で不正を行い料金の支払いを逃れていた。しかも、複数枚のICカードを財布に重ねると自動改札機が読み取れなくなるため、読み取らせてスムーズに通過できるよう工夫を行っていた。
不正利用の回数、金額とも最多だった50代課長職の男性は、パスケースに入れた2枚のカードの間にアルミ箔(はく)を挟むことでエラーを防止。また、ふたつ折りの財布を使って、任意のカードを読み取らせる手口を使っていた職員もいた。
なぜこのような手口が使われたのか? それはあくまで
「間違えて使ってしまった」
ことを装うためだ。
不正を働いた職員は、全員が使うカードを「間違え」ただけで、かつ自動改札機に表示される画面は「見落とした」と説明している(『北海道新聞』2017年11月28日付朝刊)。
もともと札幌市交通局では、1992(平成4)年に職務乗車証の不正利用が発覚。配布をやめて貸し出し方式変更していたのだが、不正の芽をつむことはできなかった。
職務乗車証の不正利用の処分は減給までとしていた基準について、札幌市には非難が殺到。2018年2月から最大で免職まで下せるようになった。