バスも鉄道も存続危機! でも「ローカル路線」の話題がイマイチ盛り上がらないワケ
他事業のユニバーサルサービスの取り組み例

ここで、ローカル路線に関する議論について深く理解するために、他事業におけるローカルサービスの事例を見てみる。
例えば、固定電話事業だ。NTTの固定電話事業も、都市部以外の地域へローカルサービスを提供しており、事業構造としてはローカル路線と似ている。山間部の小さな集落であっても通信インフラを維持している同社は、2006(平成18)年に創設された「ユニバーサルサービス制度」により、不採算地域の赤字が補われている。
NTT東日本とNTT西日本(以下、NTT東西)が提供している、加入電話、固定電話、緊急通報は、日本全国で提供されるべきユニバーサルサービスに位置付けられている。NTT東西もJRと同じく、都市部の採算地域の収入で、地方の不採算地域を補っていた。しかしながら、都市部などの採算地域における他事業者との競争激化により、NTT東西の自助努力では維持が困難になったため、この制度が設けられた。
都市部の収入で地方のインフラを維持している構造は、冒頭の両備バスをはじめ、JR東日本も、NTT東西も全く同じである。にもかかわらず、JRの公共交通部門は何らかの制度が設けられることなく、現在に至っているのである。
ローカル線の議論を活性化するには

「地域モビリティの刷新に関する検討会」の資料で、関係道県知事より「鉄道事業者側の事情のみによって廃止等が可能な現行法の手続の見直し」が提言されている。現行の鉄道事業法では、維持が困難になれば鉄道事業者の判断により廃止可能である。
つまり、鉄道は「日本全国で提供されるべきユニバーサルサービス」として、
「積極的に国が関与して維持する対象」
ではないのだ。
だからこそ、ローカル路線の存続・廃止に関する議論は、関係する鉄道事業者と地方自治体だけに限定されてきたのではないだろうか。
その経緯からすると、「地域モビリティの刷新に関する検討会」として、国が関与したことはある意味画期的である。危機感を強めている関係道県知事は、
「ローカル線を含めた鉄道ネットワークのあり方は、国の交通政策の根幹として考えるべき問題」
と、さらなる国の積極的な関与を求めている。
交通政策は、国の成長戦略に向けた国土の有効利用とセットになる重要なテーマである。しかしながら、現時点においては、核となる国の交通政策が不在であるようにしか見えない。
もしそうであるならば、今議論すべきことは「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新」ではなく、
「わが国の公共交通のあり方」
ではないか。そうすることで、ローカル路線の存続・廃止に限定されることなく議論が盛り上がるだろう。