琵琶湖の「この場所」に、なぜ橋を作らないのか?
琵琶湖大橋の開通から60年、湖西地域の発展を支えた交通インフラとしての役割は顕著だ。しかし、今なお新たな架橋計画は進まず、現行インフラで十分とされる背景にはどのような理由があるのか。湖の水運から近代交通網まで、地域発展の裏側に迫る。
琵琶湖大橋で地域発展が加速

琵琶湖大橋の完成により、地域の交通網は大きく改善された。この橋を中心に周辺の道路網も整備され、湖西地域は国道一号線や名神高速道路と直結。京阪神・中京地域へのアクセスが格段に向上し、物流の効率化と観光客の増加を実現した。
観光開発も急速に進み、1967(昭和42)年には「びわ湖タワー」がオープン。その後、1992(平成4)年には巨大観覧車「イーゴス108」が設置され、京阪神から日帰りで楽しめる観光スポットとして確立された。
びわ湖タワーは2001年に閉園したが、観光開発とともに人の流れが活発になり、住宅地や商業施設の開発が進んだ。周辺地域は確実に発展を遂げたが、京阪神のベッドタウン化が進んだ堅田周辺とは異なり、高島市は消滅可能性自治体となり、琵琶湖大橋が目指していた均衡ある発展が実現したとは言い難い。
地域発展に格差は見られるものの、琵琶湖における新たな架橋計画は進んでいない。その理由は、現状の交通需要を十分に満たすことができているからだ。
現在、琵琶湖には琵琶湖大橋とその有料道路(2本目の橋)の2本の橋があるが、これら2本の橋で地域の交通需要はすでに十分に対応できている。周辺には大型商業施設やアウトレットモールが集積し、交通の要所として効率的に機能している。
さらに、大津市と草津市にはインターチェンジも設置され、高速道路網との接続も確保されている。このように、限られた架橋を核にした交通・商業ネットワークで、対岸間の交流は十分に確保されているため、「なぜ琵琶湖にはもっと橋がないのか」という疑問に対する答えは、技術面だけでなく、
「現状で十分だから」
という合理的な結論となる。