「個人タクシー」は儲かるのか? 現役ドライバーが語る、向いてる人・向いてない人の特徴とは
タクシー業界の内情を知る現役ドライバーが、業界の課題や展望を赤裸々に語る。今回は、個人タクシーについて。
実録・個人タクシー運転手

個人タクシーには個性的な運転手も少なくない。堅いファンが付くこともある。東野さん(仮名)もその一人だった。
東京の業界でこの男を知らないと、特に大田区大森・蒲田の城南地区辺りでは“モグリ”と言われた。上客も多く、若い頃は日本映画の黎明(れいめい)期を支えた大女優にたいそう気に入られていたという。
女優はどこへ移動するにも東野さんを指名した。昼飯も何度かごちそうになった。
その東野さんは現在90歳超。もちろん、今は現役を退いて年金生活だ。妻を数年前に亡くし、楽しみは晩酌で飲む焼酎1合と少々のパチンコ。1日の小遣いは1000円弱。腰は少し曲がったが、早朝の健康体操は欠かさない。
彼の昔話が面白い。
20数年前、千代田区の帝国ホテルから外国人客を羽田空港まで乗せた。降ろすと、すぐ別の外国人客が手を上げる。降ろしたところで乗せると本当はご法度だが、ものすごいアピールに思わずドアを開けた。
「ナガノ、OK?」
ナガノ。行き先を言っているのか? 東野さんは都内の中野区ですか、と聞き返す。
「ノー、ナガノ」
聞き間違いではなく、やっぱり長野県だった。