自動車メーカーはなぜ「水性塗料」にシフトするのか? トヨタ、マツダ…環境対策で変わる塗装の現場とは

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自動車塗装業界は、VOC排出規制強化を受けて、水性塗料への移行が加速している。特にトヨタやマツダの事例に見るように、環境負荷削減と作業環境改善が進むなか、技術革新によるコスト削減も期待されている。欧米の規制強化とともに、グローバル規模での水性塗料導入が進んでおり、今後さらに加速することが予想される。

自動車塗装での作業環境の改善

マツダ独自の水性塗装システム「アクアテック塗装」(画像:マツダ)
マツダ独自の水性塗装システム「アクアテック塗装」(画像:マツダ)

 水性塗料への移行が進んでいる背景には、環境保護に加え、作業環境の改善という重要な要素がある。従来の溶剤系塗料に比べ、水性塗料は有害な化学物質の放出が少なく、吸入による健康リスクを大幅に低減させる。このため、塗装作業の安全性が向上し、作業環境が改善されることとなった。

 さらに、水性塗料の導入は作業者の健康リスクを減らすだけでなく、エネルギー効率の向上にも寄与している。水性塗料は乾燥に時間がかかるという課題があったが、技術の進歩により、この問題も解決に向かっている。

 トヨタ自動車は早期から水性塗料の開発と導入に取り組んでおり、1999(平成11)年には新しい水性塗料塗装技術を開発した。この技術では、カートリッジ型の小型塗料タンクを塗装ロボットに取り付け、塗料に直接静電気を発生させることで塗布効率を飛躍的に向上させた。その結果、作業環境に影響されにくい水性メタリックベース塗料の使用が可能となり、量産ラインでの採用が実現した。

 さらに進んだ事例として、マツダの「アクアテック塗装」がある。2009年から2012年にかけて、宇品工場でこのシステムを導入し、VOC排出量とCO2排出量の同時削減に成功した。2016年には中国の生産拠点にも同技術を導入し、グローバル規模での環境負荷低減を進めている。

 塗装技術が進化し、作業環境の改善と環境負荷の低減を同時に実現できるようになったことで、自動車業界における水性塗料への移行はさらに加速している。

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