なぜ「電動バス」導入には問題が多いのか? 500台で年間5億円の燃料費削減も、バス会社が既存車両の「寿命」を重視するワケ
寿命延長の可能性と三つの手法

寿命延長の可能性と手法は、次の三つに分けられる。
・車両のモジュール化、整備性や交換性の向上
・リファービッシュの促進
・技術革新による耐用年数の改善
まず、車両のモジュール化、整備性や交換性の向上だ。モジュールとは、特定の機能を集めたパーツであり、劣化や故障が発生した際には、その部分だけを交換することができる。このアプローチは、電動バスにおいても重要であり、特にバッテリーや駆動部など、劣化が早い部品に焦点を当てて、交換しやすい設計が求められる。
例えば、筆者らの研究では、バッテリーを床下に集中させ、モーターはインホイール方式を採用することで、異常が発生した部品のみを簡単に交換できるようにしている。このようなモジュール化は、欧州でも電動バスの設計において研究が進められている。
次に、リファービッシュの促進である。リファービッシュとは、既存の車両の車体はそのままに、古くなった部品や駆動系を更新する手法である。鉄道の事例では、東急の7000系が冷房化やVVVFインバーター制御化を行い、60年以上現役で活躍している。小田急の旧4000形も、戦前の車両を更新しながら、足回りを高性能化することで長寿命化を実現した。バスにおいても、鉄道のように車体を維持し、足回りだけを改修して長期間使用する方法が有効だろう。
実際に、西鉄グループはレトロフィット電動バスの製作を開始しており、旧型ディーゼル車両の足回りを電動化する取り組みを進めている。この改造費用は1台あたり約2700万円で、1台には行政の補助金が活用されている。また、関東でも国際興業バスがレトロフィットを導入しており、今後の展開に注目が集まっている。
最後に、技術革新による耐用年数の改善が重要だ。特に、バッテリーの性能向上と新素材の導入がカギとなる。全固体電池は、次世代のバッテリー技術として注目されており、これにより電気自動車の走行距離が従来の2倍程度に延び、充電時間の短縮も期待されている。全固体電池は、電解質に液体ではなく固体を使用することで、これまでのバッテリーに比べて大幅な性能向上を実現する。しかし、電池の特性として劣化が避けられないため、どのタイミングで交換が必要になるかが今後の課題となる。