なぜ「電動バス」導入には問題が多いのか? 500台で年間5億円の燃料費削減も、バス会社が既存車両の「寿命」を重視するワケ

キーワード :
,
国内の電動バス市場が加速するなか、初期費用の高さが普及の障壁となっている。新技術の導入や車両のライフスパン延長が鍵となり、コスト削減に向けた革新が求められる。車両の維持管理やバッテリー技術の向上を進めることで、持続可能な公共交通への道が開かれる。

初期コストと長期的利点のギャップ

路線バス(画像:写真AC)
路線バス(画像:写真AC)

 電動バスの車両価格は、ディーゼルバスの約2倍強になる。これは、中国のBYD製の電動バスと比較した場合であり、国産のいすゞ自動車のエルガEVを考慮すると、東京地区の希望小売価格(型式ZAC-LV828L1)は消費税込みで6578万1980円となり、国産の大型ノンステップディーゼルバスと比較して約3倍に達する。

 しかし、事業者によっては、緊急時対応などを考慮して国産車を選ぶ場合もあるが、いずれにしてもバッテリー交換のコストが事業者側に大きな負担をかけるのは明らかである。今後、バッテリー技術の進化が予想されるが、交換コストをカバーする公的補助が普及のカギとなるだろう。

 筆者(西山敏樹、都市工学者)は、電動バスの試作研究プロジェクトに参加した経験があり、調査結果によると、既存の大型ノンステップディーゼルバス(全長10.5m、全幅2.5m)は1kmあたり38円の燃料費がかかる。一方、試作した大型電動低床バスは、同じサイズで1kmあたり8円(夜間電力使用時)で走行することができ、電動化によって1kmあたり約30円の燃料費削減が実現する。路線バスは、全国的に1日120km、年間300日走行することが多いため、

「30円 × 120 km × 300日」

とすれば、1台あたり年間108万円の燃料削減効果が期待できる。都市部の大型バスは平均15年で廃車となるため、1台あたり15年間で約1620万円の燃料費削減が可能である。

 もし事業者が500台の大型バスを保有していれば、年間5億円以上の燃費削減が見込める。この額は、ディーゼル方式のノンステップ大型バス約25台分に相当する。また、電動バスは部品点数がディーゼル車両の三分の一であり、メンテナンス費用の低減も期待できる。それにも関わらず、イニシャルコストだけが重視され、電動バスの普及には至らない傾向がある。

全てのコメントを見る