「インバウンドだけ課税しろ」 “宿泊税”の使い道に不満噴出! 観光振興はそもそも誰のためなのか?

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宿泊税は全国で導入が進み、観光振興のための財源として期待されている。しかし、その運用にはさまざまな課題が浮き彫りになっている。宿泊税の目的は観光振興にあるが、地域全体の公共サービスにも貢献するという視点が重要だ。そのため、税収の使い道や負担と受益のバランスを見直す必要がある。

観光振興策の財政活用法

インバウンド観光のイメージ(画像:Pexels)
インバウンド観光のイメージ(画像:Pexels)

 宿泊税に対する不満は主にふたつある。ひとつは、たとえ数百円の税額であっても、新たな負担を強いられることへの「抵抗感」。もうひとつは、その税収が観光関連産業にのみ恩恵をもたらし、一般住民には直接的な利益が少ないという「不公平感」だ。

『観光文化』261号に掲載された、日本交通公社の主任研究員である江﨑貴昭氏の論文「宿泊税「活用」のプロセス論」では、この問題に関する興味深い事例が紹介されている。江﨑氏によると、宿泊税が古くから導入されている欧米では、一部の地域ですでに税収が一般財源として活用されているという。その理由は次の通りだ。

「その理由としては、当初、宿泊税を「観光振興のための予算」として導入を主導した首長や議員が代わってしまうことや、税収として行政の会計に組み入れられた宿泊税が、財政状況によっては「観光振興のための予算」という位置づけを拡大解釈され、公共工事等に用いられてしまうためである」

 江﨑氏は、宿泊税を観光振興に使うことの意義を、次のふたつの観点から説明している。

 第一の観点は、観光振興への投資が「地域全体に波及効果をもたらす」点だ。例えば、城の天守閣の維持や復元は、一見すると観光客のための施設整備に見えるが、それは地域のシンボルとなり、都市全体のブランド価値を高める効果を生む。つまり、観光施策が地域全体の価値向上につながるということだ。

 第二の観点は、観光振興策が「公共財を活用して公共サービスの充実にもつながる」点だ。典型的な例として、観光地での循環バスの運行がある。これは観光客の利便性向上だけでなく、地域の渋滞緩和や環境負荷の低減にも貢献する。このように、単独では採算が取れなくても、観光客と地域住民の両方に便益をもたらす公共サービスへの投資が可能になるのが、宿泊税の重要な役割だ。

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