日本の「恐怖体験」が持つ独自の魅力【連載】平和ボケ観光論(4)
“管理された恐怖”が健康促進

ハロウィーンのホラー要素は、平和で安全な日本の環境と非常に相性が良い。日常生活において身の安全を脅かされる心配がない環境では、人はあえて強い刺激を体験したいという心理を抱くようになる。現実の危機から遠ざかっているからこそ、作り込まれた非日常としての恐怖を、心身を活性化させる娯楽として享受できるのだ。こうした状況下で体験する「管理された恐怖」は、ストレスを和らげ、健康状態を改善させる可能性があることが最新の研究で明らかになった。
デンマークのオーフス大学を中心とした研究チームが2024年11月、「Brain, Behavior, and Immunity」で発表した研究によれば、おばけ屋敷を訪れた参加者の体内炎症レベルが有意に減少することが確認された。実験にはデンマークのヴァイレ市に住む113人(女性69人、男性44人、平均年齢29.7歳)が参加し、心拍数をモニタリングしながらおばけ屋敷を体験した。さらに、実験前と3日後にわたり体内炎症レベルを測定。その結果、軽度の炎症を抱えていた22人のうち18人が実験後3日目には炎症レベルが有意に低下していた。
ホラー映画やおばけ屋敷を楽しむ人々は、この仕組みを自覚していなくても、本能的に刺激を求めることでストレス耐性を高め、心身の健康を促進していると考えられる。日本は、こうした心身の回復を目的とした体験を得るために、理想的な条件が整った環境である。1998(平成10)年に公開された日本のホラー映画『リング』がハリウッドでリメークされるなど、日本のホラー文化は世界中で高い評価を得ている。
背筋が凍るような物語を心置きなく楽しめるのは、日常生活における防衛本能を解除できるという揺るぎない確信があるからに他ならない。こうした安全という前提の上に成り立つ刺激体験を、観光やエンターテインメントとしてさらに発展させる余地は、日本にこそ十分にあるといえるだろう。