「観光客は自宅に帰れ」 地元住民がプラカードで抗議デモ! スペインの現実は「京都」にも迫るのか? 行き過ぎた“観光公害”を考える
観光業の影響、低賃金拡大

実際、反発は非常に強い。
先に述べた反論に加え、2024年9月には観光用賃貸物件の事業者団体が財産権侵害を理由に訴訟を起こした。また、Airbnbは
「バルセロナの短期賃貸物件に対する取り締まり戦争の唯一の勝者はホテル業界だ」
として、市に対して抗議している。このほか、2024年2月には国民党(PP)がカタルーニャ自治州政府の民泊規制に関する法律が憲法に違反しているとして、憲法裁判所に提訴し、現在も審理が続いている。カタルーニャ共和主義左翼(ERC)は、かつて独立をめぐる投票で話題になったが、民泊規制に賛成の立場だ。一方、ジャウマ・コルボニ市長が所属する社会党(PSC)は、国民党と同様に独立には反対しているが、民泊規制については意見が分かれている。ただし、国民党を除けば、ほとんどの政党は民泊規制を進める立場を取っている。
その理由は、観光業に伴う貧困問題にある。バルセロナ市の統計によると、2022年の従業員の年間総給与は次のようになっている。
●バルセロナ市
・観光業の平均年収:2万2467ユーロ
・その他の業種の平均年収:3万3966ユーロ
●バルセロナ地域全体(県)
・観光業の平均年収:2万1746ユーロ
・その他の業種の平均年収:3万550ユーロ
●バルセロナ広域観光圏
・観光業の平均年収:2万5771ユーロ
・その他の業種の平均年収:2万9949ユーロ
つまり、観光業は雇用を生み出す一方で、その依存度が高まるほど
「低賃金の労働者」
が増えるという結果を招いている。この観点から、民泊規制は単なる観光業の抑制策にとどまらず、ゆがんだ労働市場や住宅市場を是正するための
「包括的な都市政策」
として理解すべきだ。
いずれにしても、オーバーツーリズム対策としてバルセロナ市で実施されている民泊規制強化の方針は、他の国々でも進められている。例えば、ポルトガルのリスボンでは観光用賃貸物件の増加によって住民が家賃の大幅な値上げに直面し、郊外への移住を余儀なくされているため、住民運動が活発になり規制を求める声が強まっている。