日本が海外から観光地として選ばれる本当の理由【連載】平和ボケ観光論(1)
女性が行動しやすい街の設計と風土

日本の平和ボケ的な観光資源を語る上で欠かせない要素が「女性」の存在だ。日本では女性が一人でも安全に旅をすることが可能であり、夜間に繁華街を出歩いても、よほど特殊な状況でない限り深刻な問題に直面することはない。この安全性は、旅行者にとって一日の有効な活動時間を飛躍的に拡大させている。リスクを回避するために日没とともにホテルへ戻る必要がなく、興味の赴くままに深夜まで街を探索できる自由は、滞在の満足度を底上げする大きな要因となっている。
旅行会社が「女子旅」のプランを充実させ、飲食店が女性向けの価格設定を行うことで、女性の行動範囲はさらに広がっている。街中に美容院やネイルサロン、アパレル店、雑貨店が数多く存在し、日本独自の感性に触れられる場がいたる所にあることも、回遊の動機を強めている。こうした女性が行動しやすい街の設計と風土は、訪日客にも非常に好意的に受け入れられている。
2003(平成15)年の映画『ロスト・イン・トランスレーション』では、スカーレット・ヨハンソン演じる米国人女性が、東京の渋谷を一人で散策する姿が印象的に描かれた。異国の繁華街でありながら、危険を警戒して身を縮めることなく、好奇心のままに歩き回るシーンが成立したのは、日本の安全性が空間全体に浸透していたからだ。このように、防衛本能を解除した状態で都市の深部まで探索できる環境は、世界でも稀有な価値を持っている。
以前、海外旅行からの帰路で、日本酒を楽しみながらこれからの滞在について語り合う訪日女性の二人組を見かけたことがある。彼女たちはリピーターのようで、日本を訪れることを心から楽しみにしている様子が伝わってきた。こうした日本のファンを増やし、平和な環境を維持し続けることこそが、令和の観光政策において最も重要な柱となる。社会全体に漂う穏やかな空気が、一日の終わりまで旅行者の活動を支え、消費と発見の機会を最大化させている事実は、日本が誇るべき無形のインフラである。