日本が「観光地」として海外に選ばれる、実にもっともな理由【連載】平和ボケ観光論(1)

キーワード :
,
日本の観光は、独自の「平和ボケ」が魅力の源泉。2021年の五輪では日本のもてなしが際立ち、訪日外国人は増加中。約90%の若者が平和を実感し、安定した水道水や子ども向け施設、女性の安全な旅行環境が、再訪を促進。日本独自の観光資源として、この「平和ボケ」がますます注目を浴びている。

平和ボケは日本の観光資源

インバウンドのイメージ(画像:写真AC)
インバウンドのイメージ(画像:写真AC)

 観光は、訪れる人々に心の安らぎや新しい体験を提供する特別な活動だ。2021年の東京五輪は、その影響を見直す良い機会になった。五輪期間中、選手村では日本のもてなしが特に目立った。

 日本独特のホスピタリティや「平和ボケ」は、現代の緊張した状況のなかで、訪れる人々に安心感や癒やしを与えている。本連載「平和ボケ観光論」では、日本の観光業が提供する平和な環境での特別な体験が、いかに日本の「平和ボケ」が観光資源として価値を持つのかを探っていく。

※ ※ ※

 美しい水や空気は無料で、安全もタダで提供される社会に対して不満を持つことは難しい。しかし、それが当たり前になると「平和ボケ」が生まれるのかもしれない。

 平和ボケという言葉は、平和に慣れすぎて現実を見失う状態を指す。具体的には、長い間平和な状況が続くことで、危機感や警戒心が薄れ、社会や自分の問題に対して無関心になったり、適切な判断ができなくなったりすることを意味する。この言葉は、主に戦争や自然災害、社会問題などの脅威が少ない環境で育った世代に使われることが多い。平和が続くことで、過去の歴史や教訓を忘れがちになり、危機への備えが不十分になることが心配されている。

 80年前、日本は滅亡の危機に直面した戦争を経験した。終戦後の混乱を経て、高度経済成長やバブル経済の崩壊、震災があったものの、戦争とはほぼ無縁の状態が続いている。今や日本は、世界に誇る「平和ボケ」国家になってしまった。

「危機感を持ったほうがいい」

という声がどこかから聞こえてくるかもしれない。実際、バブル経済崩壊後の長期低迷や「失われた30年」は、日本人の平和ボケに起因しているのかもしれない。

 一方、世界では今も戦争で命が失われ、治安が崩壊している地域や食糧不足に苦しむ場所もある。また、環境破壊が進み、健康が脅かされている地域も多い。

 五井平和財団が143か国4272人の若者に行った調査によると、自国が平和だと思う割合はほぼ同じだが、日本の若者の約9割が「思う」と回答しているのが興味深い。

 戦争や混乱する国際情勢のなかで、平和の存在は貴重で魅力的だ。「平和ボケ」の日本は、その存在を強く示しているひとつであり、最近増加しているインバウンドの人々もその魅力に引き寄せられている。

 オーストラリアの経済平和研究所が発表した2024年度の世界平和度指数では、日本は「軍事化」の分野で平和度が低下し、17位にランクダウンしたが、2023年は9位で、世界有数の平和度を誇っている。これは世界的にも評価されている証しだ。

 つまり、平和ボケは

「日本の観光資源」

ともいえるのではないだろうか。

全てのコメントを見る