「トラックドライバーが触ったおにぎりは買いたくない」 ドライバー自身による“棚入れ問題”が浮き彫りにしていた、現代社会の構造的病理
汗して働くさまを不快に感じる人たち
話を戻そう。
ドライバーが荷物の積み卸しを行う姿を不快に感じる人は、以前から存在していた。30年近く前のことだが、筆者(坂田良平、物流ジャーナリスト)は引越し会社のドライバーをしていた。マンションでエレベーターを使って荷物の搬出入をしていると、住民から
「お前たちの汗の匂いがエレベーターにこもるから、エレベーターを使わずに階段を使え!」
と怒鳴られることがよくあった。
当時、都内のタワーマンションはまだ少なく、我々が使うエレベーター前には目隠しのついたてが設置され、マンションの管理職員が監視していた。理由を聞くと、
「住民の目に触れると困るから」
といわれた。
特に印象的だったのは、都内の高級住宅地にある一戸建て住宅への引っ越しの際のことだ。利用客が突然、
「あなたたち、汗をかかないで!」
と怒り始めた。新居や家財に我々の汗がつくのを生理的に我慢できなかったのだろう。暑くはなかったが、作業をしていれば汗はかく。
最初は我慢していた利用客も、途中から耐えられなくなったようだ。その後、我々は汗をかかないように気をつけながらも、ヒステリックな罵声にさらされながら作業を続けることになった。
この例は特異かもしれないが、今でもトラックドライバーや建築作業員の汗の匂いをスメハラ(スメル・ハラスメント)として攻撃する人は存在する。
最近、空調服(作業着に電動ファンが付き、熱中症予防効果がある衣服)についてSNSで次のような投稿を見かけた。
「空調服を着てコンビニに入ってくる現場作業員のおじさんたち、自分の汗の匂いを店内にバラまかないで!」
空調服は強制排気を行うため、確かに匂いを拡散することがある。しかし、香水のような嗜好品とは違って、
「頑張って働いている人たち」
の汗の匂いを、たまたま出会った人たちまでそんなに毛嫌いするのは、果たして正しいことなのだろうか。