早田ひな「特攻資料館行きたい」は“戦争肯定”発言なのか? 中韓から大非難の現実、戦争博物館の教育効果を考える【リレー連載】平和産業としての令和観光論(7)
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銀メダリスト発言が招いた国際的議論

令和時代において、観光は単なる経済活動にとどまらず、文化交流や国際理解を促進し、平和構築の一翼を担う重要な要素として位置づけられている。コロナ禍以後の、観光を通じた令和の新たな国際関係構築のあり方について、議論を深めていく。
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観光は「平和産業」である。
パリオリンピックで卓球女子団体の銀メダルを獲得した早田ひな選手が、帰国後の記者会見で
「鹿児島の特攻資料館(注:知覧特攻平和会館。鹿児島県南九州市)に行って生きていること、そして、卓球ができることが当たり前ではないということを感じたいと思う」
と発言した。
この発言が中国や韓国のSNSユーザーから猛反発を受け、騒ぎに発展。日本国内でも早田選手を擁護する声や批判する声が飛び交った。この騒動の背景には、戦争博物館に対する知識不足や誤解が影響している。
今回の件を通じて、戦争博物館を訪れることの意味について考え直す必要がある。
戦争博物館が映す各国の視点

日本にも多くの戦争関連施設が存在する。例えば、靖国神社の遊就館(ゆうしゅうかん、東京都千代田区)や広島平和記念資料館(広島市)、今回話題となった知覧特攻平和会館などだ。また、地方自治体の博物館や資料館でも戦争に関する展示が行われている。これらを総称して「戦争博物館」と呼ぶことにする。
世界にも同様の施設が存在する。各国の戦争博物館だけでなく、英国のロンドンにある帝国戦争博物館、ドイツのドレスデンにあるドイツ連邦軍軍事史博物館のような戦争を専門とした博物館のほか、ポーランドにあるアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所跡のような戦争ではないが、大量虐殺のような悲劇を扱った博物館なども存在する。
これらの施設は、戦争の歴史を伝えることが目的だが、その内容には「戦争に対する価値観」が反映されることが多い。
例えば、広島平和記念資料館は、原爆の被害と恐怖を伝える展示が中心となっている。博物館は本来、価値中立的であるべきだが、展示内容や紹介文にはその施設の目的が反映される。
特に中国では、日本との戦争を扱う博物館で日本軍の蛮行や侵略行為を前面に押し出した展示が多く見られる。北京の盧溝橋にある中国人民抗日戦争紀念館では、盧溝橋事件や日中戦争の展示だけでなく、731部隊が行ったとされる生体解剖のシーンをマネキンで表現している。このように、中国の戦争博物館は日本の侵略行為や蛮行を告発する内容が特徴となっている。