知られざる闇? インバウンド増加による「バイト賃金」高騰が、介護業界に大危機をもたらしていた!
観光特需と介護業界の苦闘

福祉・介護事業者の報酬体系は主に「基本報酬」と「処遇改善加算」のふたつで構成されている。基本報酬は事業者に支払われ、処遇改善加算は福祉・介護の実務労働者に対する「労働の対価」として基本的に支払われる。ただし、報酬体系は複雑なため、本記事では概説にとどめる。
福祉・介護業界の基本報酬は3年ごとの報酬改定によって決まる。この改定では地域ごとに若干の調整が行われる。例えば、2024年度の改定では、訪問介護の利益率が高いため基本報酬が引き下げられる一方、東京などの地域では報酬が高くなる。上記を踏まえ、福祉・介護報酬が賃金体系に反映しにくい理由は次の三つだ。
・福祉・介護サービスはサービス価格が決まっており、賃金上昇に反映するには限界がある。
・3年に1回の報酬改定では、最低賃金や物価上昇などの外的要因に対応しにくい。
・観光特需による賃金高騰など特殊な地域事情に対応しにくい。
福祉・介護報酬の基本報酬(サービス価格)は、国が総合的に検討して定めるため、価格の上限が決まっている。結果、福祉・介護産業は観光産業のように需要に応じて自由に価格を設定することができない。
また、3年ごとの報酬改定では最低賃金や物価の上昇に迅速に対応することが難しい。介護業界では、アルコール消毒や車両購入といった経費がかかるため、報酬改定だけでは十分な対応ができない。
さらに、観光特需によって賃金が上昇しても、基本報酬は大枠の地域で決まっているため、一部の地域だけには対応できない。
これらの影響は特に、アルバイトやパートが主に働く訪問介護事業所において顕著だ。例えば、時給が2000円の「観光サービス」と比べると、福祉・介護業界が人材獲得競争で勝つのは難しい。
観光特需による賃金上昇に対応するためには、特需地域の賃金上昇に合わせて福祉・介護の賃金も上昇させるための
「地域特性に応じた権限と財源の移管」
が重要だ。