トヨタ会長も訴えた「交通安全の限界」 なぜ“時速20kmのまちづくり”が世界的トレンドになっているのか?【連載】牧村和彦博士の移動×都市のDX最前線(24)
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豊田会長の交通安全提言
2024年7月18日、長野県茅野(ちの)市にある蓼科山聖光寺(しょうこうじ)で交通安全を祈願する夏季大法要が行われた。そのなかで、トヨタ自動車会長である豊田章男氏が語ったとされる「今の日本は頑張ろうという気になれない」という言葉は大きな反響を呼んだ。
豊田会長は大法要のなかで、
「交通事故防止のためには、自動車会社だけ、クルマ側だけではできることには限界がある。交通安全を推し進め、事故死者ゼロを本気で進めるのであれば、道路インフラ側や歩行者側、自転車や(電動キックボードなどの)新モビリティ側など、社会全体が一体になって進める必要がある」
と語った(ベストカーウェブ2024年7月23日付け記事より)。本媒体でも何度も紹介してきた
「ビジョンゼロ」
の哲学が改めて紹介されたわけだが、ビジョンゼロの意義や本質については、残念ながら日本国内ではあまり広がっていないのが現状だ。世界の常識が“日本の常識”にならないという不思議な現象が安全哲学においても繰り返されている。
人間中心の交通政策
ビジョンゼロを一言でいえば、人間は交通事故を起こしてしまうということを前提に、たとえ起こったとしても
「重傷化させないための道づくり」
により、人間中心の交通政策に転換していく政策だ。
これまでの交通安全対策といえば、
・ドライバーの運転行動を改善させ
・多くは運転手の責任として扱い
・事故が生じた場所を事後的に対策する
のが一般的だ。一方でビジョンゼロは、人のミスや限界を前提とした道路設計の改善を基本とし、市街地や人と交錯する交差点部では、クルマの走行速度を抑制し、速度を落とすよう道路構造を工夫する。
重傷事故が生じるリスクの高いところに積極的に安全対策を先行投資し、やみくもに事故を防ぐ対策から、
「死亡と重傷事故を防ぐ対策」
に、道路管理者や交通管理者のマインドも合わせてシフトさせていく考え方だ。