EV覇権の地政学! 背後にチラつく中国の巧みな「欧米分断戦略」とは

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バイデン政権が中国製EVに対する関税を100%に引き上げるなか、EUも最大37.6%の関税を適用。中国は強く反発し、貿易摩擦の激化が懸念されるが、中国は米欧の分断を狙い、自制的な対応を取る可能性が高い。今後、EV覇権をめぐる地政学的な緊張が続く見通しだ。

中国の戦略的自制と欧米分断

メキシコ(画像:写真AC)
メキシコ(画像:写真AC)

 EVを含む中国製自動車の販売先は英国やスペイン、オーストラリアなどの欧米諸国も含まれるが、主な輸出先はロシアを筆頭に、

・メキシコ
・サウジアラビア
・フィリピン
・タイ
・UAE

などが多く、追加関税を発動したEUではなく、

「今後さらに市場価値が高まるグローバルサウス」

にシフトすることも選択肢としては可能であり、今回のEUによる追加関税に対し、中国が強い態度で対応することも可能である。

 しかし、中国側の狙いはそこにはなく、中国を取り巻く経済安全保障情勢が激化するなか、今日の習政権が狙っているのは欧米の分断、米国と欧州の

「デカップリング」

である。すなわち、バイデン政権下の中国が懸念しているのは、米国が同盟国や友好国と組み、多国間で中国に対抗してくることであり、先端半導体の覇権競争はまさにそのケースだ。

 仮に、今回のEUによる追加関税措置に対して、中国が同じようなマグニチュード、もしくはそれ以上の厳しい対抗措置を示せば、EUと米国との協調路線に拍車が掛かる可能性がある。

 よって、中国は戦略的にもより

「自制を働かせた対応」

を取ることが考えられ、対欧州ではEUという地域的枠組みではなく、中国と欧州各国という形でバイラテラル(2国間)な経済、貿易関係の強化を狙ってくるだろう。それを強化することができれば、EU内での各国の協調路線を脆弱(ぜいじゃく)化させ、対中国における

「EUの形骸化」

につながる可能性もある。

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