交通系「ネーミングライツ」はなぜ失敗するのか? 話題の東武×モス「なりもす駅」から考える
成功を阻むさまざまな要因
これら道路関連のネーミングライツが成功しづらい理由は、これまで価格設定が大きな要因とされてきた。しかし、価格の問題ではないことも少しずつ浮かび上がってきている。
前述したが、スタジアムや音楽ホールなどのネーミングライツはスポーツ振興や文化育成といった大義名分を掲げることができ、企業の社会的責任(CSR)としてもPRできる。他方、道路のネーミングライツにはCSR効果が薄く、単なる宣伝活動としか見られない向きが強いようだ。特に周辺住民からシビアな目で見られることが多く、企業にとって逆効果になりかねない。そのため、企業側は尻込みしてしまうようだ。
また、道路関連のネーミングライツは安全運転の観点からも目を引くような掲出物が難しいという事情もある。ロードサイドにはカラフルな屋外広告看板は多いが、仮にも公共施設のネーミングライツで同じようなド派手な掲出物を出すわけにはいかない。せっかく金を出して宣伝するのに、目立ってはいけないとなれば、企業側としてはネーミングライツに応募する意義を見いだしにくい。
街の中にあふれる屋外広告看板は、それぞれ条例によって規制がある。それでも公共施設へのネーミングライツより規制は緩い。そうした屋外広告看板いう手ごわいライバルの存在も、道路関連のネーミングライツを阻んでいる要因といえる。
地方自治体が道路関連のネーミングライツに力を入れる理由は、高度経済成長期やバブル期に整備された道路インフラの大半が老朽化していることが挙げられる。近い将来、道路関連のインフラは一斉に更新時期を迎える。
それらインフラを更新するのか、それとも廃止するのか。廃止するにしても撤去費用などがかさむ。人口減少・少子高齢化が激しい地方自治体には、そうした道路へ費やす財源的な余裕はない。かといって、道路は物流を確保するうえでも欠かせない。道路インフラを維持するためにも、ネーミングライツに頼らざるを得ない。
しかし、ここまで述べてきたように道路関連のネーミングライツは金銭の多寡だけで成功・不成功は決まらない。これまでの教訓を踏まえれば、ネーミングライツを取得した企業が地元企業であることが望ましい。地元企業でない場合は、地域とともに歩む姿勢を打ち出すことが成功の鍵になるだろう。