せまい日本、そんなに急いでどこへ行く? 今こそ見直したいフェリー「スロートラベル」の魅力 旅客獲得に向けた戦略とは【短期連載】海洋国家にっぽんのフェリー進化論(3)
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国内フェリー旅行の魅力
四方を海に囲まれている日本にとって、フェリーは欠かすことのできない交通手段である。今日では、インバウンドによる海外からの旅客需要や「2024年問題」などにより貨物需要が期待できる反面、少子高齢化による労働力不足や定期旅客の減少という逆風も吹き荒れている。今回は、中長距離フェリーを中心に観光面、旅行面の役割について話を進める。
長距離フェリーの先駆けは、1968(昭和43)年に登場した神戸と小倉を結ぶ阪九フェリーのフェリー阪九である。当時はトラック輸送が増加するものの、道路事情が決してよくなかったことから“海のバイパス”として登場した。フェリーの役割は
「物流」
がメインだったが、1970年初頭にレジャーブームも巻き起こり、フェリーで旅行するスタイルが生まれた。長距離フェリーの代名詞的な存在のさんふらわあが初登場したのも1972年だ。
以降、オイルショックや景気の影響をまともに受けながらも、フェリーが代替わりする度に旅客設備が充実して、新たな旅客を取り込んできた。
フェリー旅行の魅力は、何といってもゆったりとした設備だろう。鉄道やバス、あるいは飛行機といった輸送モードでは、移動中ほとんど座席に着いているといってもいい。その点フェリーは、最も
「移動時の自由度」
が高い。ホテルのロビーのようなエントランスにはじまり、レストラン、浴室、航路によってはミニシアター、ワークスペースと設備が充実し、もちろんデッキも散歩できる。単なる移動手段としてだけでなく、フェリーでの
「旅行そのものが目的」
となりうる多様性があるのが中長距離フェリーといってもよいだろう。
もちろん、中長距離フェリーの中心はトラック輸送でありほとんどが夜間に出発することや、時間がかかるという制約がある。その点に目をつむってでも船旅をする、スローライフならぬ
「スロートラベル」
を楽しむ余裕が必要かもしれない。