「交通系ICカードやめます」熊本の公共交通、未来どうなるのか? 利便性vsコスト問題、全国交通系カード撤退の背景と拭えぬ不安
利便性低下への懸念
しかし、この決定が全ての利用者にとって好ましいわけではない。特に、JRを利用して熊本市内に通勤・通学している県民や、他県から熊本を訪れる人にとっては、大きな不便が生じることになる。
また、他県から熊本を訪れる観光客にとっても、「くまモンのICカード」が使えないことは不便だ。全国のほとんどの地域で共通化が進んでいるなかで、熊本の交通機関では自分のICカードが使えないというのは、利用者の立場に立てば理不尽に感じるだろう。
このように、全国交通系カードの撤退は、一部の利用者にとっては大きなデメリットとなる。利便性の低下は、熊本を訪れる人の満足度にも影響しかねない。交通系ICカードは、今や旅行や出張の際の必需品となっている。その利用が制限されるということは、熊本の魅力を損なうことにもつながりかねないのだ。
では、どのような解決策が考えられるだろうか。
制度上、更新費用は補助金の対象外になっているとはいえ、熊本県が独自に全国相互利用機能を維持するための支援策を検討することはできないだろうか。費用が不足していることを理由に、利便性を損なうことは地域振興にも影響を及ぼしかねない。ただ、更新費用を補助するということは、今後も更新の度に同様の補助が必要になってくる可能性もあり、容易には決断しにくいだろう。
しかし、熊本県の公共交通の発展のためには、ICカードの利便性を維持することが不可欠だ。現在の補助制度では更新費用をカバーできないのであれば、新たな支援策を検討する必要がある。
例えば、更新費用の一部を補助する代わりに、各事業者に一定の経営努力を求めるといった方策が考えられる。あるいは、全国交通系カードの更新費用を、各地域で分担するような仕組みを作ることもできるかもしれない。いずれにせよ、交通系ICカードの普及が進むなか、熊本県だけが取り残されるようなことがあってはならない。
熊本県はバス無料の日など、公共交通を重視した施策を実施している交通政策の先進エリアである。その熊本県が、ICカードの利便性を損なわない英断を下すことを期待したい。