「交通系ICカードやめます」熊本の公共交通、未来どうなるのか? 利便性vsコスト問題、全国交通系カード撤退の背景と拭えぬ不安

キーワード :
, ,
熊本県内の公共交通で利用されている全国交通系ICカードが廃止され、代わりにクレジットカード決済が導入される方針が明らかになった。これにより、利便性が地域外の利用者にとっては課題となる。

地域限定vs全国対応のカード戦略

熊本市の繁華街(画像:写真AC)
熊本市の繁華街(画像:写真AC)

 この更新費用は、各交通事業者が自社で賄わなければならない。国では交通系ICカードの普及を促進するために補助制度を実施している。後述する全国交通系カードのシステムの際には、導入費の約8億6000万円に対して国や県・熊本市の補助があり、事業者の負担額は、約2億円に軽減された。

 ところが、この制度は導入のみを対象としており、機器の更新に対しては補助を見込めない。一方で、代替策と位置付けるクレジットカードのタッチ決済は新規事業と見なされ、補助の対象となる可能性が高い。そのため、かねてより経営難の続いている各社では、コストのかさむ全国交通系カード対応機器からの離脱を決めたのである(『熊本日日新聞』2024年5月28日付)。

 熊本県では交通系ICカードを導入する時点から、費用の高額な全国交通系カードを導入するか、比較的定額な独自のシステムを導入するかが争われた経緯がある。磁気式プリペイドカード「TO熊カード」の更新時期を迎えた2013(平成25)年頃から、交通系ICカードの導入議論が本格化している。

 このとき、どのような仕組みを導入するかをめぐって意見は真っ二つにわかれた。熊本市交通局が主張したのが全国交通系カードの導入だ。熊本市は国の補助金活用を念頭に、交通事業者、国・県・熊本市がそれぞれ3分の1を負担する枠組みを用いて導入を進めることを提案していた。

 しかし、民間各社はこれに難色を示し、地域限定型カードの導入を主張した。利便性に欠く地域限定型カードを主張したのは、圧倒的にコストが安いことである。加えて、開発は

・地域限定型カードなら:地元の肥後銀行グループ
・全国交通系カードなら:西日本鉄道など県外事業者

を利用することが予定されていたことだ。地域限定型カードならば、地域に利益が還元される。全国交通系カードにした場合は他県の事業者に利益がわたることになるわけだ。

 また、コスト面でも地域限定型カードならば、運営する肥後銀行の関連会社に毎月の利用料を支払う方式となる。一方で、全国相互にした場合には、試算では11億6000万円とされる導入費かかる予定となっていた(『熊本日日新聞』2013年10月1日付)

 このように地域限定型カードと全国交通系カードでは、

・利便性
・コスト
・地元への利益還元

という点で大きな違いがあった。そのため、一本化の話し合いは難航したのである。結局、一本化には至らず熊本市交通局は2014年3月に「でんでんnimoca」の導入を開始した。

全てのコメントを見る