LCCが「日本」でイマイチ普及しない4つの決定的要因

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日本を含む東アジアでは、LCCの普及率が世界標準を下回り続けている。大都市が多く、国土も広く、航空インフラもある程度整っているにもかかわらず、なぜ伸び悩んでいるのか。

羽田・成田の制約

アイルランド・ライアンエアーのウェブサイト(画像:ライアンエアー)
アイルランド・ライアンエアーのウェブサイト(画像:ライアンエアー)

 以下、3点の理由である。

●主要空港の発着枠がとれない
 ふたつめの理由は、主要都市の空港で発着枠を獲得するハードルが高いことだ。特に日本と中国でその傾向が強い。都心に近い羽田空港では、深夜早朝便を除き、国内線・国際線ともに発着枠に厳しい制限が課せられている。その結果、羽田を発着するLCCは、深夜時間帯にエアアジアがクアラルンプールへ、ピーチが台北へ就航するなど、ごく一部に限られている。

 東京のもうひとつの空港である成田空港も、24時から翌朝6時までは着陸できず、遅れの許されないシビアな運航を要求される。このような遅れによる損失は莫大(ばくだい)であり、便数を増やすことは困難である。このような発着枠の制限は、東アジア全域に共通している。
 例えば、中国の首都である北京や中国最大の経済都市である上海は、航空自由化の対象から外されることが多く、ほとんどの路線が自由に開設できない。実際、中国の研究者によると、上海を拠点とする中国最大のLCC、春秋航空は航空当局としばしばもめており、収益性の高い路線や時間帯のよい発着枠の確保に苦労しているという。

 LCCはまた、高頻度運航をビジネスの重要な要素と考えており、空港での着陸から次の離陸までの間隔を狭めている。しかし、日本や中国の主要空港のように発着枠に余裕がない場合、米国のサウスウエスト航空などが実現している上記のような仕組みを運用することは難しく、非常に不便である。

●空域の制限が厳しい
 LCCに限らず、フルサービス企業に共通することだが、東アジア諸国は旅客機が運航できる空域が狭い。首都圏に近く、カバー範囲が広いにもかかわらず、米軍の管理下にあり、自由な運航が難しい“横田空域”をご存じの読者も多いだろう。

 実際、他の国でも同じような状況があり、特に中国では空域のほとんどを軍が支配しているため、民間旅客機は飛行空域が狭く、遅延が発生しやすい。また、中国の軍事訓練は台湾海峡など周辺地域で行われることが多く、中国だけでなく日本や台湾にも影響を及ぼす可能性がある。前述したように、LCCにとっても空港滞在時間を短くすることは利益確保のために重要であり、遅延リスクのある空域制限は大きな制約要因となっているのだ。

●独立系LCCが少なく、路線網が増えにくい
 最後に、日本、中国、台湾、香港で独立系のLCCが少ないことが、LCCの普及に影響していると思われる。特に日本と台湾では、次のように各社とも各国・地域の大手航空会社の傘下に入っている。

・ANA傘下:ピーチ、エアジャパン
・JAL傘下:ジェットスター・ジャパン、春秋航空日本、ジップエアトーキョー
・チャイナエアライン傘下:タイガーエア台湾

 香港もふたつあるLCCのうち、香港エクスプレス航空は現地最大手・キャセイパシフィック航空の子会社である。中国にはいくつかのLCCがあるが、企業として成功しているのは上場企業でもある春秋航空だけである。大手航空会社の傘下に入ると、限られた発着枠を利益率の高いフルサービス路線に使う傾向がある。そのため、ネットワークを拡大し、市場シェアを拡大することが難しくなる。

 一方、東アジアで唯一LCCのシェアが高い韓国では、エア・プレミア、ティーウェイ航空、イースター航空、チェジュ航空など独立系の航空会社も多く、長距離路線も含めて多くの会社が競合している。先行してきた欧米では、路線網が拡大しており、最近では米国東海岸と西欧各地を結ぶ大西洋路線にもLCCが登場している。こうした競争力のある国々と、発着枠が限られているため収益性の高い路線に集中しがちなフルサービスエアラインの中華圏や日本との差は大きい。

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