クルマは本当に日本を幸せにしたのか? 戦後つくられた「クルマ強制社会」、持ってなければ生活ニーズも満たせない深刻現実とは

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飲酒運転・ひき逃げ・店舗突入が常態化した背景には、1960年代の国策がある。ノーベル経済学賞に最も近い日本人といわれた経済学者の宇沢弘文氏は著書のなかで、無秩序な自動車依存とそのコストの問題を指摘している。

交通事故の撲滅可能性

スウェーデンの首都ストックホルム(画像:写真AC)
スウェーデンの首都ストックホルム(画像:写真AC)

 こうした構造的な問題は“個人のモラル”では対応できない。

 スウェーデンでは1997年に、交通事故による死者・重傷者をゼロにする目標を掲げた「ビジョン・ゼロ」を国会で決議した。ゼロという数値目標は非現実的だと批判も起きたようだが、本来の趣旨は、運転者・歩行者の個人的要因(ヒューマンエラー)に責任を求めるだけでなく、

「道路や自動車の設計者・管理者・運転者を雇用する事業者」

にも責任があることを明示することにある。

 日本でも、店舗突入などを起こす「踏み間違い事故」が、ドライバーの動作だけでなく特定の車種で多発すると指摘されている。単なる風説なのか事実なのか、なぜ公的な調査が報告されないのだろうか。

 ビジョン・ゼロで重大交通事故をシステム的に分析した結果、純粋にヒューマンエラーに基づく事故は全体の7%に過ぎず、残りの93%は

・車両や道路の構造
・規制(速度制限など)

が関係しているという。日本でこれを指摘すると「加害者を免責するのか」という

「的はずれの批判」

に直面することが多く、システム的なアプローチには理解が示されない。しかしそれでは「交通事故で一定数の死亡者・重傷者が発生するのはやむをえない」という前提を認めるのと同じである。

現代の社会的費用

自動車ユーザーのイメージ(画像:写真AC)
自動車ユーザーのイメージ(画像:写真AC)

 宇沢氏以後にも多くの人・機関が、社会的費用すなわちユーザーが負担すべき費用を負担せず外部に転嫁にしている費用について研究しており、その項目は

・環境
・エネルギー
・混雑
・事故
・土地消費
・インフラ(道路)費用

など多岐にわたる。

 自動車ユーザーは「税負担が多すぎる」との不満が常に聞かれる。例えば自動車工業会は税負担が9兆円にもおよぶ(ただし消費税2兆9000億円を含む)とアピールしている。しかしユーザーが負担すべき費用を外部に転嫁している分もまた巨額である。

 この分野で現代の社会的費用を整理した経済学者の兒山真也氏(兵庫県立大学国際商経学部教授)の試算によると、ユーザーが負担していない社会的費用は、乗用車だけで約13兆円、全体で

「約24兆円」

であり、自動車関係諸税収とは全く釣り合わない。また交通事故に関しては内閣府の試算もあり14兆7600億円との額を示している。

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