クルマは本当に日本を幸せにしたのか? 戦後つくられた「クルマ強制社会」、持ってなければ生活ニーズも満たせない深刻現実とは

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飲酒運転・ひき逃げ・店舗突入が常態化した背景には、1960年代の国策がある。ノーベル経済学賞に最も近い日本人といわれた経済学者の宇沢弘文氏は著書のなかで、無秩序な自動車依存とそのコストの問題を指摘している。

「クルマ強制社会」の形成

宇沢弘文(画像:日本学士院)
宇沢弘文(画像:日本学士院)

 宇沢氏の著書の時点(50年前)に比べれば、交通事故死者は数字の上ではかなり減少し、大気汚染や騒音なども改善された。しかし社会的な面でクルマの最も大きな負の側面は、クルマがないと基本的な生活ニーズも満たせないように

「地域と社会の構造」

を変えてしまったことだ。

 日本のモータリゼーションの初期には、クルマはまだぜいたく品の性格があったが、現在ではむしろクルマがないと基本的な生活ニーズも満たせない

「クルマ強制社会」

が形成されてしまった。

 単に不便の範囲を超えて就職さえ制約される。大都市以外ではクルマがないとアルバイトやパートにも出られないし、日常の買い物や通院さえできない。ネット上には「高齢者の迷惑運転」というドラレコ映像が数多くアップされているが、その投稿者は自分が高齢になったらどうするつもりなのか。

 公共交通は大都市でさえ必ずしも便利とはいえない上に、ダイヤ改正のたびに減便・路線の廃止が続く。

「最後の公共交通」

とされるタクシーも大都市以外では存続が危ぶまれる。

交通事故が起こる理由

縦軸は交通事故死者(人/年)、横軸は自動車走行量(億km/年)。警察統計より(画像:上岡直見)
縦軸は交通事故死者(人/年)、横軸は自動車走行量(億km/年)。警察統計より(画像:上岡直見)

 しばしば運転マナーに関して

・名古屋走り
・伊予の早曲がり
・茨城ダッシュ

などとやゆされる悪慣習が事故多発の要因として取り上げられる。しかしそれは

「都市伝説」

にすぎない。

 図は1994(平成6)年、2005年、2015年とおおむね10年おきに、都道府県別に年間自動車走行距離と交通事故死者数の関係を示したものである。自動車走行量と交通事故死者はほぼ比例関係にある。つまり“マナーの問題”などではなく、

「自動車の走行距離が多い都道府県ほど、交通事故死者数が多い」

という単純な関係である。図で年を追って直線の傾きが緩やかになっているのは、全国的な交通事故対策がそれなりに効果を挙げてきたことを示す。

 しかし交通事故の支配的な要因は自動車の走行距離だという比例関係には変わりがない。国策として

「誰でも簡単に免許が取れ、クルマが運転できる」

という状態を推進してきたのだからそれも当然だろう。

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