「働かない社員」を簡単にクビにしてはいけない! 昭和の炭鉱労働者に学ぶ、日本人が失った真の「生産性」とは

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かつて福岡県の筑豊地方には多くの炭鉱会社があった。その従業員のなかに「スカブラ」と呼ばれる、従業員同士の“潤滑油”のような役割を果たす人たちがいた。現代社会は「スカブラ」から何を学べるか。

モチベーションを高める「仕事」をしていた

再現された炭鉱住宅(画像:写真AC)
再現された炭鉱住宅(画像:写真AC)

 これが事実だとすれば、どうしてこのような現象が起こるのだろう。働く人の成果は、

「能力」×「モチベーション」

で生まれると筆者(曽和利光、人事コンサルタント)は考えている。どれだけ能力を持っていたとしても、まったくやる気がなければ成果は出ないし、逆に少しくらい能力が足りなかったとしてもやる気が最大まで高まった状態では

「火事場のばか力」

が出て期待を超える成果を出すこともある。「スカブラ」社員は、能力開発はしないだろうから、労働者たちのモチベーションを高める「仕事」を実はしていたのではないか。

 実際、「スカブラ」社員がいなくなったら、皆口々に

「炭鉱が面白くなくなった」
「働きに出る意味がない」

などといっていたそうである。

インフォーマル・グループを作り上げていた

飯塚市のボタ山と遠賀川(画像:写真AC)
飯塚市のボタ山と遠賀川(画像:写真AC)

 なぜ、仕事と関係のない「笑い話」が、仕事へのモチベーションを上げるのか――。それは、

「職場型モチベーション = 誰と働くか」

が重要な人が世の中には多いからではないか。よく知られた経営学の古典的実験である「ホーソン実験」(生産性向上の要因を調べるために米ホーソン工場で行われた実験)での

「人間関係が最も生産性に影響する」

という結果とも似ている。

 ホーソン実験ではインフォーマルグループ(友好関係から自然発生的に生まれる非公式組織)が仕事のモチベーションや生産性に好影響を与えているということもわかった。友好関係は自然発生的なもので

「意図的に作ることは難しい」

が、生まれやすい環境を作ることは可能であり、雑談を通じて「スカブラ」社員が担っていたのではないか。

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