公道の嫌われ者? 日本で「電動キックボード」が普及しないワケ 便利さに見合わぬ道路事情とは

キーワード :
, , ,
国内でも少しずつ認知度が高まっているものの、本格的な定着にはまだ時間が掛かりそうな「電動キックボード」。普及を阻むものは何か、仏パリとの比較から検証する。

東京、鉄道整備を優先した歴史

パリ市街に整備された自転車道(画像:川辺謙一)
パリ市街に整備された自転車道(画像:川辺謙一)

 このためパリは、欧州の自転車先進都市から一歩出遅れて自転車移動空間の整備を始めた。自転車道や自転車レーン、レンタサイクルを整備するだけでなく、道路における車両の最高速度を時速30kmに制限する速度規制「ゾーン30」を段階的に導入し、自動車と自転車の相対速度を小さくして、自転車が走りやすい環境を整えた。2021年8月には、パリ市内のほぼすべての道路が「ゾーン30」になった。

 電動キックボードを導入したのは、このように自転車の走行環境を整え、新しいモビリティを導入しやすい下地をつくったあとだ。電動キックボードは、走行時に環境に有害な物質を排出せず、駐輪に必要なスペースが自転車よりも小さい。このため、SDGsとも合致し、ラストワンマイルに利用する新しいモビリティとして期待されている。

 次に東京の自転車政策を見ていこう。東京の道路では、自転車の走行空間の確保は長らく後回しにされた。自動車の走行空間を確保するだけで手一杯だったからだ。

 この背景には、道路整備の遅れがある。日本では、明治時代から鉄道整備が優先されたゆえに、道路整備は長らくないがしろにされ、1950年代に自動車保有台数が急増してから道路整備が急ピッチで進められた。このため、自動車交通の発達が欧州よりも大幅に遅れた。

 東京は、日本でもとくに道路整備が遅れた都市であり、都市計画法に基づいて計画された一般道路(都市計画道路)は、現在でも全体の約6割しか完成していない。また、1950年代から交通渋滞が頻発したため、都市空間を立体的に使った首都高速道路を整備し、一般道路の不足分を補ってきたという歴史がある。

全てのコメントを見る