「ママチャリの人」炎上を支える幼稚な“正義感” 実行部隊は“40万人に1人”というレアキャラっぷり、糾弾より交通ルールを守る環境づくりが先決だ
求められる交通安全教育
加えて、自転車の取り締まりの甘さも問題視されている。
警察は自転車の違反行為に対し、これまであまり積極的ではなかった。例えば2023年に全国で自転車の違反で検挙されたのは4万4207件。これは同年の自動車の検挙件数547万6654件と比べると、はるかに少ない数字だ。
「捕まるリスクが低いこと」
が、ルール無視を助長しているのかもしれない。もちろん、警察も無為無策だったわけではない。
2011(平成23)年以降、警察庁からは「良好な自転車交通秩序の実現のための総合対策の推進について」などの通達が出され、自転車への街頭指導や交通切符の積極的な活用なども進められてきた。その結果、自転車の交通違反の検挙件数は2014年の8070件からは大幅に増えている。それでも、なおも取り締まりは十分とはいえなかった。こうした状況もあり、自転車にも反則金を導入する道路交通法の改正を歓迎する声が多いようだ。
しかし、警察にも人的リソースに限界がある以上、反則金制度が導入されて、取り締まりを強化するだけでは問題は解決しないだろう。警察庁の調査でも、自転車の安全利用の促進に向けて重要だと思うことについて
「子どもに対する交通安全教育の推進」
が最も多く選ばれている。学校における交通安全教育の拡充はもちろん、地域や家庭と連携した多角的なアプローチが求められる。また、自転車が安心して走行できるインフラ整備も欠かせない。
・自転車レーンの設置
・歩道と車道の区別を明確化
するなど、事故の可能性を減らし、ルールを守りやすい環境づくりが必要であることも忘れてはならない。
結局は厳罰だけでは対策は不十分であり、
「利用者個人の自覚」
が重要なのだ。自転車は公共の場で利用する乗り物である。利用者には「車両を運転している」という自覚が求められる。「ちょっとくらいルール違反しても大丈夫」といった安易な油断が重大事故につながることを忘れてはならない。交通ルールをしっかり守り、安全運転を心がける。それが自転車事故を減らすための第1歩となるだろう。その点で、冒頭で触れた女性のママチャリ逆走動画は
「自転車マナーを考え直す貴重な機会」
になるはずだった。しかし現実には、女性を“悪者”として懲らしめようとするという空気ばかりが議論をリードし、肝心の「自転車マナーをどう改善するか」という建設的な議論が置き去りにされている。