EV失速の本質! なぜ物事を「急進的」に進めてはいけないのか
消費者が望まないBEVへの移行を性急に進めようとする人々がいる。そこで本稿では、BEVを題材に、「急進的」であることのリスクを分析する。
持続可能な商品開発
以上、技術開発の六つのリスクを説明してきた。
さて、企業は限られた開発費のなかで、他社との競争に勝つために、開発期間を短縮し、かつ性能と品質も確保する必用がある。エンジン車の技術者だった筆者はこれらを両立するためにふたつのことを実践してきた。
・ゆっくり急ぐ:良い計画ができれば仕事は半分終わっている。計画に時間をかけることで結果的に全行程が短くなる。これは「フロント・ローディング」とも呼ばれる。
・走りながら考える:しかし開発は予定通りには進まない。良い計画には想定外の事態に対する逃げ道を設けておき、迂回しながら本来に近いルートを探し、遅れを挽回する。
トヨタもテスラも、同じようなやり方をしているはずだ。トヨタのHVは、1997(平成9)年の初代プリウス以来20年以上かけて市場を作り上げ、2022年2月末で累積販売台数2000万台を達成した。2003年創業のテスラは、2012年に完全新開発のモデルSの生産を開始し、2023年3月には累積生産台数が400万台を超えた。
そこでとどまることなく、トヨタはBEVの品ぞろえ拡大と同時に次世代全固体電池の開発を進め、テスラは新工法「アンボックスト・プロセス」による手ごろな価格の実現をめざしている。
企業がリスクをとって技術の進歩に挑戦する一方で、消費者は性急な判断にともなうリスクを認識し、それがなくなったと感じた時点で商品を購入し、安心して長く使う。持続可能な商品市場は、このようなサイクルで形成されていくべきだ。