EV失速の本質! なぜ物事を「急進的」に進めてはいけないのか

キーワード :
, ,
消費者が望まないBEVへの移行を性急に進めようとする人々がいる。そこで本稿では、BEVを題材に、「急進的」であることのリスクを分析する。

サプライチェーンの脆弱性と課題

2024年3月25日発表。主要11か国と北欧3か国の合計販売台数と電気自動車(BEV/PHV/FCV)およびHVシェアの推移(画像:マークラインズ)
2024年3月25日発表。主要11か国と北欧3か国の合計販売台数と電気自動車(BEV/PHV/FCV)およびHVシェアの推移(画像:マークラインズ)

 三つ目から五つ目のリスクについて記す。

●持続可能性のリスク
 持続可能な商品とは、SDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境、社会、企業統治)ではなく、消費者に長く愛される商品だ。しかし技術は進化し、消費者の嗜好も変化する。だから、両者を柔軟に結びつけて、つかず離れずの関係を維持することが必要となる。そのためには、定期的な市場調査により商品企画を適時に見直し、期間や地域を限定した試験販売等を経て、徐々に販売を拡大するプロセスを、十分な期間をかけて行う。

●過剰生産のリスク
 適切なプロセスを経ずに商品化を急ぐとどうなるのだろう。いや、既に現実となってしまった。中国のEV生産能力は2024年には1500万台/年となる見通しだが、これは国内需要を大きく上回り、生産ラインの稼働率が50%を割ることが懸念されている。

 そこで各企業が一斉に海外に販路を求めた結果、欧州や米国から高い関税を賦課される可能性が高まり、それを回避するために今度はアジアや欧州での現地生産を模索している。2019年に500社以上あった中国の自動車会社は、2023年には100社になり、生き残るのは10社程度とされる。

●サプライチェーンのリスク
 新技術と従来技術ではサプライチェーンは、川上から川下まで大きく異なる。BEVは多くの希少金属を使う。例えばバッテリーの正極材に使うリチウムをバッテリー製造に使うには、川上で多くの工程を経て原材料を精錬する必要がある。需要増加に応じた生産能力の増強には時間がかかり、環境破壊や強制労働の改善は先送りにされるリスクが高い。

 川下でのリサイクルや廃棄の事業化もあまり進んでいない。各国で一定割合のリサイクル材の使用を義務付ける動向はあるが、BEVへの移行と釣り合うかどうか明確ではない。
また、適切な処理をしない廃棄は環境汚染につながる。

全てのコメントを見る