国産ミサイルは本当に使い物になるのか? 防衛省・新導入の艦対空誘導弾「A-SAM」によぎる一抹の不安
目標追尾に問題

第1は、目標追尾に不安はともなうことである。
海軍用の対空ミサイルは超低空目標を迎撃できなければならない。軍艦にとって最大の脅威は高度3m以下、今では1mまで下がって飛んでくる対艦ミサイルである。
そのためにA-SAMは本質的な改造を施さなければならない。陸自向け中SAMは高度1mの目標に対応していない。高度10mを切るかどうかの目標しか迎撃できないからである。
まずは、ミサイルの接敵角度を俯角(ふかく。物体を見下ろすときの視線の方向と、目の高さの水平面との間の角度)9度に変更しなければならない。1km先の目標なら自分の150m下に見る形である。
この俯角9度とは、海面のブリュースター角である。その角度で電波で照らすと目標が一番よく見える。逆に9度よりも小さくても、大きくても海面上の目標は見えにくくなる。レーダ電波の乱反射や散乱のノイズで目標が紛れてしまう。
しかし、A-SAM開発ではそのように設定した話はない。
むしろ陸上設定のままの可能性が高い。
「上から狙う」話からそう疑える。元3等海佐(中級幹部)の筆者(文谷数重、軍事ライター)は5年ほど前に
「A-SAMは目標を天頂側から狙うので命中率が高い」
との発言を聞いた。これは海上向けというよりも陸上向けの設定である。陸地のブリュースター角は砂漠でも30度だからである。
また、出力抑制と周波数幅の拡大もしなければならない。超低空目標を狙う場合、目標接近にあわせてそうしなければならない。海面近くではA-SAM側の電波がノイズとなり目標からの反射信号は埋もれてしまう。
例えば出力1kwを100wに絞り、帯域幅1MHzを50MHzに広げる具合である。後者について実際の周波数幅で示すなら10.000GHzから10.001GHzまでの幅1MHzから10.050GHzまでの50倍に広げるということである。
これもA-SAMでは聞かない。ブリュースター角も含めて周知技術である。本来なら公表する内容だが、それがない。
これらの理由から目標追尾機構が陸上向けのままの可能性もある。中SAMと同様に高度10mを切る程度の目標までしか迎撃できないのではないか。そのような疑いは拭えない。