「私は荷物のように扱われた」 ある“車いすユーザー”が航空会社を訴えたワケ 米国の実態は日本より数段ひどかった?

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車いす利用者は、安全かつ尊厳を持って飛行機に乗ることができるべきである。米国運輸省はそのような規制案を発表した。当然のことではないのか。米国における車いす利用者の空の旅の現状を調査した。

米国の障がい者への意識

ユナイテッド航空のウェブサイト(画像:ユナイテッド航空)
ユナイテッド航空のウェブサイト(画像:ユナイテッド航空)

 米運輸省長官は、この航空会社の車いす取り扱いに関する提言がされた背景を、次のように述べている。

「これまでにあった劣悪な対応は、エアライン側の意識や教育の問題ではあるものの、その背景に規則の不備がある」

つまり、ルールを強いて問題を具体的に可視化することで、改善をうながそうとしているのだ。今後改善が求められる課題をまとめるとおおむね以下だ。

1.預け入れ車いすの取り扱いの改善
2.預け入れ車いすの紛失の防止
3.スタッフの意識改革
4.航空機や空港の設備/アクセスの改善
5.障がい者ニーズの正しい理解とコミュニケーションの改善
6.手続き上の問題の解決(ルールや手順を障がい者目線で見直す)

 このなかで、特に「スタッフの意識改革」という点に注目したい。スタッフの意識とはどのようなもので、どのような改革が必要なのだろうか。正確に把握するには、まず根底にある米国社会の障がい者への考え方についても知る必要がある。

 これまでに述べた訴訟事案などのように、顕著に劣悪な対応が起こる背景には何があるのだろう。航空会社は、なぜ障がい者に対し差別的でひどい扱いをしてしまうのだろうか。

 米国社会は日本以上に障がい者を受け入れている。個々人の考え方や態度は別として、社会全体としては、むしろ障がい者を特別視しないことがごく当たり前の認識だ。雇用を見ても明らかだ。日本の「障がい者雇用枠」などという概念すらそもそもない。障がいがあっても能力があれば健常者と同じ条件で雇用される。

 われわれ日本人は、

「身体の不自由な方には思いやりを持って接し、手助けする」

ことを美徳として学び育つ。それはそれで立派な道徳観だが、少しうがった見方をすると、米国社会と比較して、むしろ日本の方が障がい者を

「特別扱い」

しようとしているともとれる。あくまでもよい意味ではあるが、障がい者を特別扱いして当たり前だと考えていると思う。

 その点、米国人の概念は少し違っていて、障がい者を特別視せず同等に見る。障がい者への一見ひどいと思われる扱いは、障がい者を他の乗客と同等に見る米国的な考え方から、ついそのような対応になってしまうという部分も、少なからずあるのかもしれない。

 助けを必要として願い出ているにも関わらず、対応しなかったり、ぞんざいな対応をしたりするのはもちろん問題だが、一概にすべてが

「差別的意識が起因したいじわるな対応である」

ともいい切れないのかもしれない。

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