「当事者が払え」「企業努力が足りない」 日本人はなぜ“公共交通”を税金で支える感覚がないのか?【連載】ホンネだらけの公共交通論(1)

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「交通税」に対しては、特に自家用車利用者の間で強い反対がある。日本人は、全ての人のために公共交通を守るという価値観が希薄なのだ。

支払い意思額の客観測定

 国土交通省が2018年4月に実施した社会調査によると、約6割の生活者が、バリアフリーやユニバーサルデザインを推進するためには、1乗車あたり10円の上乗せが妥当と回答している。

 調査はインターネットリサーチを使って、関東大都市圏、近畿大都市圏、中京大都市圏、その他の大都市圏(札幌、仙台、新潟、静岡・浜松、岡山、広島、福岡・北九州および熊本の各大都市圏)、大都市圏に含まれない地域の合計5エリアで実施された。設定は、高齢者(65歳以上)と非高齢者(20~64歳)の2属性で、「400人×5エリア×2属性 = 4000サンプル」。

 また、国土交通省は先に、首都圏と近畿圏の鉄道利用者1000人を対象に、バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進のための上乗せ運賃の支払い意思について調査を実施している。首都圏の利用者は1乗車あたり

「14~22.3円」

の上乗せ額を、近畿圏の利用者は1乗車あたり

「15.7~19円」

の上乗せ額を支払うと回答し、一定の負担意思が示された。

 こうした調査の動向もあり、東京・大阪・名古屋の三大都市圏のJR各社と大手私鉄各社は、1乗車あたり10円程度の上乗せを前提に、鉄道事業者と国土交通省との調整が続くことになった。その後、2023年4月に本格導入された。

 国土交通省は、都市部ではバリアフリー設備費用を運賃に上乗せし、地方ではバリアフリー予算を重点的に確保することで、全国の鉄道駅のバリアフリー・ユニバーサルデザイン化を加速させる意向を示している。

 運賃を上乗せして整備するこの手法は、モータリゼーションで経営状況が極めて厳しい地方の公共交通事業者にも有効なはずで、全国への普及も議論される可能性が高い。その場合、生活者の支払い意思額をより正確かつ客観的に測定するプロセスを通じて、国、自治体、公共交通事業者、生活者の社会的合意を形成することが不可欠である。

 よって、バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進のための精度の高い支払い意思額調査手法は、今後ますます社会的な重要性を増していくものと思われる。

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