イオンシネマ車いす騒動、ネットでの非難は論外! 「同情」も一種の差別か? “合理的配慮”の本質を考える

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3月16日、映画館チェーン「イオンシネマ」を運営するイオンエンターテイメントは、従業員が来館者に不適切な対応をしたとして、謝罪文を発表した。背景と問題の本質とは。

障害者の移動権の欠如

バリアフリー対策のイメージ(画像:写真AC)
バリアフリー対策のイメージ(画像:写真AC)

 大都市圏ではさほど意識されないが、地方の公共交通機関では人員が足りず、車いす利用者の乗車対応ができない。あるいは、事前に連絡しなくては利用できないといった問題が、何度も話題になっている。これは

・移動権
・交通権

の保障が明文化されていないためだ。

 交通事業者に対しては2021年に施行された改正バリアフリー法によって、地方の鉄道の駅やバスターミナルなどのうち1日平均の利用客が2000人以上3000人未満の施設について、新たにエレベーターやスロープなどの整備が進められたり、若干の前進が見られたりする。

 しかし、障害者の移動の権利に関しては、権利を保障する仕組みや財源の確保に、国民のコンセンサスが得られていないとして、確保には至っていない。公共政策研究者の岩本(持田)夏海氏は、この権利確保のために以下の提言を行っている。

「交通政策基本法は,交通に関する施策について、基本理念及びその実現を図るのに基本となる事項を定め,並びに国及び地方公共団体の責務等を明らかにすることを目的とする法律である.同法 2条は「交通に関する施策の推進に当たっての基本的認識」について定めている。筆者は、同条に2 項を新設する形で「障害者の移動の権利」を明文化する法制上の措置を提言する」(『日本の科学者』57巻3号)

 障害を理由に、当事者が移動手段や娯楽を断念せざるを得ないのは合理的ではない。むしろ、繰り返し問題を提起し、対話を通じて解決していくことこそ合理的である。

 イオンシネマの件は、未解決の問題の多さを改めて認識させたはずだ。すべてを健常者と同じように利用できるシステムを作ることは容易ではない。しかし、少なくとも移動の自由は確保されるべきだ。ここでは、保守派もリベラル派も関係ない。

 さて、今から数十年後、障害者を取り巻く環境が今より劇的によくなっていると仮定しよう。相互理解が進み、障害者に手を差し伸べることが当たり前になった。誰もが生き生きと暮らしている。インターネット上で罵倒されることもほとんどない。よい社会だ。数十年前の混乱はいったいなんだったのか。あなたはそのとき、ふと当時を思い出し、自問自答する――。

「あのとき、自分はどちらの側に立っていたのか。同情を装う強者側か、それとも声を上げる当事者側か」

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