物流崩壊のカウントダウン? 引っ越し業者に長時間労働を強いてきた社会が生み出す「引っ越し難民」という病理

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「業者を見つけるのがこんなに難しいとは思わなかった」「見積もりすら出してくれなかった」――。引っ越し需要が高まる3月、4月、引っ越したくてもできない「引っ越し難民」が増えている。これは物流崩壊の予兆なのだろうか。

繁忙期を支えてきた長時間労働

令和4年度における大手引越事業者6者の引越件数。全日本トラック協会による大手引越事業者6者へのヒアリング結果(画像:坂田良平)
令和4年度における大手引越事業者6者の引越件数。全日本トラック協会による大手引越事業者6者へのヒアリング結果(画像:坂田良平)

 筆者(坂田良平、物流ジャーナリスト)は1990年代、つまり30年前に引っ越し事業者のドライバーをしていた。繁忙期は異常だった。

 1年で最も忙しい3月の最終週は、日中に5~7件の荷物を運び、深夜1時過ぎに事務所に戻り、別のトラックに荷物を積み替え、当時勤務していた千葉県流山市の事務所から、翌朝9時着で仙台や名古屋に向かうこともあった。

 当時、あまりの忙しさに集中力を欠き、筆者は接触事故を起こしてしまった。対物事故だったのは不幸中の幸いだったが、見通しのよい場所で後進してしまったことによる事故だった。ありえないミスだった。

 その日は信号待ちのたびに居眠りをし、後続の乗用車から怒りのクラクションを鳴らされ続けた。

「さすがに限界です。無理は承知でお願いします。今日の午後便は休ませてください」

 上司に直訴したが、もちろん上司は受け入れてくれなかった。翌日、疲労困憊(こんぱい)のまま出勤した筆者は、卸先のアパートで梁(はり)に前頭部をぶつけ、11針縫う大けがを負った。だが、けがをしたのが自分自身でよかった。油断していたら交通事故を起こし、見ず知らずの人の命を奪っていたかもしれないのだ。

 筆者の経験は極端だ。しかし、これほど極端でなくとも、3月、4月の繁忙期には通常の2倍の引っ越しが集中するため、引っ越し業者は長年、長時間労働で対応してきた。

 引っ越し業者に長時間労働を強いてきた社会の歪みが、ついに限界に達した結果が、この春の「引っ越し難民」なのだろうか。これを物流崩壊のひとつと呼ぶなら、確かにそのとおりである。

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