「死の商人」とは何か? 兵器は自衛か商売か、ガザ侵攻で注目される言葉の歴史を振り返る

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伊藤忠商事は2月5日、子会社を通じてエルビット・システムズと締結していた協力覚書を2月末までに解消すると発表した。関連して話題になったのが「死の商人」という言葉だ。

意図せぬ軍事利用

「オルラン10」(画像:Mike1979 Russia)
「オルラン10」(画像:Mike1979 Russia)

 しかし、現代社会ではまったく違う形で「死の商人」の問題が起こっている。現代の新たな問題は、こう整理できる。

・自社の製品が兵器に転用され、意図せざる「死の商人」となっている
・当事国に市場を持つため、戦争に関与する「死の商人」と認識される

 まず、前者について見てみよう。

 現代では、兵器に民生用部品が多数使われている。いま、ロシアとウクライナとの戦いで盛んに使われている軍用ドローンは、その代表格だ。2022年にウクライナ軍が入手したロシア軍の偵察ドローン「オルラン10」では、カメラやコネクタ、さらにはエンジン部分までもが日本製だったことが明らかになっている。いずれも、製造メーカーが軍事目的で利用されることを認知せずに輸出されたものだ。

 対するウクライナ側でも民生用ドローンを軍事転用しており、3Dプリンターでパーツを製造していることが報じられている。この戦場では、日本だけでなく各国企業の製品が、意図せず軍事利用されている事例が無数にあるだろう。

 意図しない軍事利用で最も汚名を着せられているのがトヨタだ。さまざまな方法で入手された車体が、ロゴがついたまま戦場で使われることが多いのだ。例えば、1986年のチャドとリビアの紛争では、双方がトヨタのランドクルーザーを積極的に使用した。ボディに描かれた「TOYOTA」のロゴはたびたび報道され、紛争は「トヨタ戦争」とまで呼ばれた。

 現在でもトヨタのピックアップトラック「ハイラックス」は、頑丈で部品が入手しやすいことから、アフガニスタンやソマリアなどの武装勢力に使われている。裏を返せば戦地で通用する信頼技術ではあるが、決してハッピーな話ではない。

 自社製品が思いもよらない形で軍事利用されることを避けるのは難しい。今日、グローバルサプライチェーンが確立され、企業は世界中に販路を広げている。販売されるすべての製品が、誰にどのように使用されるかを監視できるわけではない。それゆえ、いつ、どのような形で戦争に加担する「死の商人」として批判されるか、もはやわからないのだ。

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