「死の商人」とは何か? 兵器は自衛か商売か、ガザ侵攻で注目される言葉の歴史を振り返る

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伊藤忠商事は2月5日、子会社を通じてエルビット・システムズと締結していた協力覚書を2月末までに解消すると発表した。関連して話題になったのが「死の商人」という言葉だ。

名だたる兵器メーカーの原点

古典的名著である岡倉古志郎『死の商人』(画像:岩波書店)
古典的名著である岡倉古志郎『死の商人』(画像:岩波書店)

 世界の名だたる兵器メーカーも最初は小さな業者であった。

 一例をあげると、英国のヴィッカース(現在はBAE システムズ・ランド・アンド・アーマメンツ)がそうである。同社は、機関銃や軍艦、戦車や航空機までを製造する総合メーカーだが、創業者のエドワード・ヴィッカースは製粉業者であった。

 エドワードは1829年に妻の実家の鉄鋼業に転じて、鉄道製品や造船を営んでいた。兵器生産に参入したのは1888年だ。当時鉄鋼業が不況であった一方で、ヨーロッパの列強諸国の対立により軍拡が繰り広げられ兵器は有望な市場となっていた。

 企業であるから、利益の出る市場に参加するのは当然といえる。かつ、同社はマキシム・ノルデンフェルト社(機関銃を主とした製造企業)を買収するなど、多方面に手を伸ばし、英国を代表する総合メーカーとなっていった。

 当時の列強と呼ばれた国々には、同様に兵器や関連する軍需物資の生産に携わることで、台頭する企業が多数あった。ドイツのクルップ(鉄道車輪製造業から大砲生産を始める)、アメリカのデュポン(火薬製造業で巨大化。マンハッタン計画にも参加)などがそれだ。

 しかし、たとえそれが殺人の道具であっても、兵器を製造しているというだけで「死の商人」と呼ぶことに異論を唱える人もいるだろう。自国を守るために兵器で武装するのは当然だからだ。これらの企業が「死の商人」と呼ばれる本当の理由は、自国を守るためではなく、

「利益を得るために兵器を輸出している」

からである。

 しかし、資本主義の原則からすれば、先進国のメーカーが輸出に手を伸ばすのは当然だ。国内市場だけでは、取引相手は自国政府に限られる。需要は不安定で、販路も狭い。そのため、輸出することでより多くの収入を得られる。

 製造すればするほど、コストは下がる。そのため、多くのメーカーが海外に販路を拡大した。こうして、もはや顧客に制限されないほどの規模になり、2度の世界大戦と冷戦を経て発展したのである。

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