いきものがかりの聖地「小田急富水駅」 デビュー曲「SAKURA」ミュージックビデオの桜はなかった【連載】移動と文化の交差点(2)
駅を舞台にした名曲とMV

「SAKURA」のMVは、小田急線富水駅(小田原市)の駅舎前広場を使用している。ここでは、広場の桜を前にしたライブシーンが物語の構成に組み込まれているが、実は駅前広場には桜の木はない。広場は駅の東口にあるが、桜の木はセットだろう。
こぢんまりとしたローカル色の強い駅舎が、この曲にはよく似合っている。デビュー曲ということもあり、メンバーのファッションもカジュアルなアメカジで、これも駅舎に合っている。
歌詞に登場する桜は、小田急線の相模大橋脇の桜をイメージした可能性が高いが、この桜は圏央道の建設によってすでに姿を消している。もちろん、相模大橋から遠くに桜の群生を見ることはできるが、インパクトは弱いかもしれない。
もちろん、この曲を書いたギタリストの水野良樹は、自身が通っていた一橋大学(東京都国立市)にある桜並木もモチーフのひとつだと過去に発言しているので、モチーフはひとつだけではないようだ。「SAKURA」は彼らの最初のヒット曲というだけでなく、今では春になると世間が注目する名曲となっている。
さて、いきものがかりのMVには他の駅も登場する。例えば、2008(平成20)年の「花は桜 君は美し」のMVには、JR根岸線桜木町駅(横浜市)が登場する。
桜木町駅は、海側の再開発エリア「みなとみらい」と山側のノスタルジックなエリア「野毛」のちょうど真ん中に位置する。未来と過去が隣り合わせに存在する魅力的なかいわいだ。
また、2009年の「ふたり」のMVは、上田電鉄八木沢駅(長野県上田市)で撮影された。
ここの木造駅舎はレトロな雰囲気を醸し出しており、他のアーティストのMVにもよく使われている。2022年公開の映画『きさらぎ駅』でも、タイトルのきさらぎ駅として使われている。駅舎は2013年に塗り替えられ、「ふたり」のMVとはやや印象が異なる。
駅はいきものがかりのMVだけで何度も使われており、他のアーティストを含めるとおそらく膨大な数になるだろう。