JR東日本は鉄道会社なのに、なぜ「発電所」を持っているのか?
JR発電所の役割
東日本大震災の記憶もだんだん薄れつつある今日この頃だが、「計画停電」という言葉はまだ覚えている人も少なくないだろう。震災と津波で福島第1原子力発電所をはじめ太平洋岸の発電所が破壊され、首都圏で電力不足が発生したのだった。
少しでもその穴を埋めるために、被害のなかった発電所が総力を挙げて稼働したが、そのなかに
「JRの発電所」
があったことを記憶している人もいることと思われる。新潟県十日町市・小千谷市にまたがる、JR東日本所有の信濃川水力発電所(千手発電所、小千谷発電所、小千谷第2発電所の3発電所の総称)と、川崎火力発電所である。
信濃川発電所といえば、JR東日本の不祥事を思い出す人もいるだろう。JR東日本は信濃川発電所の制御プログラムを不正に書き換え、地元と約束した以上の水を発電用に取水していたことが、2008(平成20)年に発覚したのである。
不正は遅くとも1998年には始まっており、国土交通省は悪質かつ重大な違反行為として、2009年3月にJRの水利権を取り消した 。このため信濃川発電所は機能を停止したが、JRが地元自治体にわびを入れ、一定の流量を確保し、地域振興への協力を約束したことで、ようやく2010年6月にJRの水利権が再び許された 。
こうして運転再開にこぎつけた信濃川発電所は、翌年の東日本大震災では緊急事態のため国の指示と地元の支持により、確保するはずの流量をギリギリまで減らして最大限発電し 、首都圏の電力不足対策に活躍することになる。
そんなJR東日本の発電所であるが、今の日本で鉄道会社が大規模な自家発電施設を持っている例はほかにない(東京都は地下鉄や路面電車を経営すると同時に、奥多摩に発電所を持っているが、鉄道専用ではない)。
筆者(嶋理人、歴史学者)が以前書いた記事「大手私鉄の兼業といえば「不動産」「流通」も、戦前はなんと電気事業が圧倒的だった!」(2023年6月11日配信)で述べたように、電車が日本に登場した当時は電力網が未整備だったので、電鉄会社は自家発電で電力を賄ったし、電力会社から電力を買えるようになった1920年代でも、阪神や南海が当時としてはかなり大規模な火力発電所を建設している。
しかし1939(昭和14)年の第1次電力国家管理で、大規模火力発電所は国策会社の日本発送電に強制出資させられ、水力発電所も1942年の第2次国家管理で同じく日発のものとなった。こうして電鉄会社は大規模な発電所を持たなくなったのである――鉄道省(当時)の信濃川と川崎を除いて。