自動運転は「車の流れ」を悪くする? AI社会到来がおよぼす深刻な法的問題とは
AI社会の未来とは
また、取り締まる側も監視カメラ付きのロボットとプログラムによってスピード違反を取り締まればいいわけだが、ここで問題となるのがそのプログラムの内容である。
アメリカの大学で行われたコンピューター・サイエンス専攻の学生にスピード違反を取り締まるプログラムを書かせる実験では、第1グループは法の文言通りプログラムを書くように指示され、第2グループは法の趣旨を考えて書くように指示され、第3グループには詳細な指示が与えられた。
第1グループでは1kmでも制限を超えたら切符を切るプログラムを書いてくる学生が多かったが、第2グループでは一定の超過(かなりバラツキはある)を許容するものが多かった。そして第3グループでは速度ごとに超過の範囲を調整するような指示が出されており、それに従ったプログラムが書かれた。ここからはスピード違反という、一見するとあまり裁量のない取り締まりでも、かなり現場の判断に依存した取り締まりが行われていることがうかがえる。
制限速度に応じて超過してもよい速度が変化するというのは、人間にとって常識的な判断だが、それが法律に書き込まれることはない。ロボットが取り締まりを行う場合、この現場の人間の裁量がプログラマーの裁量となるわけだが、プログラマーが大きな裁量を持つことには違和感を覚える人も多いだろう。しかし、法律の規定通りにスピード違反を摘発するだけでは、円滑な車の流れは保てなくなるかもしれないのだ。
本書はこれ以外にも、ビッグデータとプライバシー、AI時代における法や裁判のあり方などを多岐にわたって扱っているが、ここで紹介したようにモビリティの将来について非常に重要なことを論じている。
自動運転の普及に代表されるAI社会の到来は、私たちの生活や経済だけではなく、法やルールのあり方までを変えていく可能性があるのだ。そして、この大きな変化について考えていくために本書は良きガイドブックとなる。