地方公共交通を襲う「2024年問題」 主体性なき自治体が温存した“民間任せ”というツケ、コンパクトシティはもはや淡き夢なのか
伊予鉄道減便でコンパクトシティがピンチ
バスや鉄道運転士の残業規制が4月から強化され、運転士不足をさらに加速させると見られる。地方自治体が目指すコンパクトシティ(交通、商業、医療、教育、行政などの機能を都市中心部に集中させる概念)の実現もピンチに陥りそうだ。愛媛県の松山市駅を発車した伊予鉄道高浜線の電車が3両編成で松山市内を走る。ビルに囲まれた市中心部を抜けると、沿線の風景が住宅街に変わってきた。やがて山口県行きのフェリーが発着する三津浜港と三津駅が見えてくる。松山市北西部の拠点となる地域だ。
この辺りは古くから港町として栄え、明治時代に書かれた夏目漱石の小説「坊っちゃん」にも登場する。当時は独立した三津浜町だったが、太平洋戦争直前の1940(昭和15)年、松山市に編入された。以来、松山市の“海の玄関”となり、高浜線が市中心部を結んでいる。
交通危機と立地適正
松山市がコンパクトシティ実現に向けてまとめた立地適正化計画は、都市機能を集める市中心部以外に10か所の居住誘導区域を設けている。そこに周辺から住民を集め、市中心部とバスや鉄道で結ぶ計画。
三津駅周辺も居住誘導区域のひとつだが、“不安の影”が忍び寄ってきた。伊予鉄道グループがバスや鉄道、路面電車の減便を進めていることだ。
2023年11月のダイヤ改正では、路面電車の松山市駅線と土日祝日に限って鉄道の郡中線をそれぞれ1日24便削減したのをはじめ、観光客に人気の坊っちゃん列車を当面の間、運休とした。路線バスは松山観光港リムジンバスや森松~砥部線など11路線が減便、運休に。伊予鉄道は
「運転士不足に対応するため」
と説明している。
しかも、4月から運転士の時間外労働時間を上限年960時間に制限する「2024年問題」に直面する。これまで以上に運転手が必要となり、運転士不足の深刻化は間違いない。運転手は50~60代が多く、大量退職が迫っている。このままの状態が続けば立地適正化計画が機能せず、コンパクトシティの実現が絵に描いた餅になりかねない。
松山市都市・交通計画課は
「コンパクトシティの実現には公共交通の維持が欠かせない。関連部局と連携し、対策を講じたいが、運転士不足は深刻」
と対応に苦慮している。